Day2-10

 大量の揚げもみじが、涼香へと襲いかかってくる。逃げても逃げても、新手が現れた。味方の生もみじは既に大半が倒れていた。

 ふと、揚げもみじの大群の陰に、1つの生もみじが見えた。

 直感的に、なぜか、それが生クリームを使った生もみじだとわかった。

 そんな夢を強制的に、鐘の音が終わらせる。

「……何事」

 そう呟きながら起き上がる涼香の耳に慌ただしい足音がいくつも連なって聞こえてきた。

「AIが遂に動き出したらしいぞ」

「どうやら、俺達が放っておいた原子力発電所がやられたらしい」

 部屋の隅から、ヒソヒソとそんな話が聞こえる。本人達は小声で話しているつもりだろうが、部屋の反対にいる涼香にまで聞こえていた。

「嘘だろ」

「ただ、核を取り出してどこかに集めてるとしか聞いてないんだ」

「そんな……日本全国の核が集まったら……大変なことになるぞ」

「大変どころじゃない。みんな死ぬぞ」

「他の国はどうなんだよ」

「核の廃止国だと、特に不審な動きはないらしい。だけど、最近山火事が全国的に多発してるらしいぞ」

「……それ、不審な動きだよ!」

「やっぱりか!」

 靴音が止まっては「集合!」「はい!」と言う声が廊下に響き渡っていた。涼香達の部屋には総勢20人くらいがいるが、皆、いつ声が掛かっても平気なよう急いで支度している。

 バタバタと走る音が扉の前で止まり、扉が大きく開かれた。

「第二軍、第三班集合!」

「はい!」

 一斉に返事をして部屋を順に出る。

 今まで感じたことのないピリピリと張り積めた空気が建物全体を覆っている気がした。

 行き場のない緊張感をどうにかしたくて、涼香はゆっくりと息を吐く。

「……大丈夫?」

 いつの間にか伸一が側に来ていた。涼香は昨日の言葉を思い出し、更に体を強ばらせる。そんな彼女を伸一は訝しげに見つめた。

「何かあった?」

 首を勢い良く横に振る。振りながら、間違えたな、と思った。こんなに勢い良く振ってしまったら、逆に怪しい気がする。

「嘘、下手だね」

 そう呟いて、伸一はそっと涼香から離れた。

「ちょっと」

 手を伸ばすが届かない。空を掴んだ手は、そのまま、どこかから現れた葵に掴まれる。

「……忠告、忘れないで」

 そう言って彼女はすぐさま姿を眩ませた。

 何がなんだかわからなくて。涼香は両手で顔を覆った。

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遥か遠く視る思い 海馬 @takenoko_wanwan

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