【第七話 嘘も真もゴチャ混ぜかしらん?】
「それでは! 只今より、表彰を行います。呼ばれた方は、壇上へお上がり下さい」
式典が着々と進行し、今回の参加型アトラクションで好成績を残したプレイヤーの表彰が始まった。各所で設置した丸テーブルから、次々と名前を呼ばれた者たちが手を挙げたり「はーい!」と返事をして壇上へと移動していく。俺たちの囲むテーブルからは呼ばれた者がおらず、ひたすら拍手を続けて眺めていた。
俺たちが海宮城へ突入するのと同時進行で、参加者が敵をどれだけ倒したかというイベントをやっていたとは……陽動作戦で搦め手に回っている間、タブレット端末で突撃シーンの映像を見てはいたが、あれがガチのゲームイベントになっていたとは驚きだ。作戦に参加していた人たちは、シャークロプスたちの侵攻で島から逃げ遅れていたわけじゃなかったのね。
もちろん俺のいるテーブルでは、誕生パーティーがこじんまりと催されている。会場全体は、杏奈の会社が主催していたイベントの閉幕式みたいな様相となっているけれど、ここには七福神に扮していたメンバーや関係スタッフたちが式典を
「なぁ、シンジよ。お前さん、本当に気づかなかったのかい?」
「言わないでくれ……ヘコむだけだから」
「普通は気づくじゃろう。ましてやファンじゃったんじゃろ?」
「でも、案外と分からないものじゃないですかね。まさか本人が近くで行動していたなんて、思いもしないんじゃないかなぁ」
そうだよ、トミー! よくぞ
ふつう、本物が隣で一緒に行動してるなんて思わないだろ? 似ている人が、さらに化粧とかで寄せてきて行動していると思うのが自然じゃないか。本人が本人じゃない方に寄せてくるなんて、この会場にいる何人が気づくよ?
確かに、何かにつけて「似ている」とは思っていたよ。でも「似ている」止まりだったんだ。
俺はグイっとシャンパングラスの中身を飲み干して、近くにいたウェイターに「おかわり」を頼んだ。酒に弱い俺だけど、今は酔いに酔って自己嫌悪している自分を忘れたい。くそったれっ! 出会ってから今に至るまで、俺と一緒に行動していた祥子さんは、俺様イチ推しのタンちゃんだったなんて、なんという不覚っ!
祥子さんとの出会いの前に、エイジが同級生のフリをして近づいてきた時から始まっていたのだ。やっぱり俺の記憶に間違いは無かったんだよ。エイジのことなんか、全然思い出せなかったもん。
自分が毘沙門天の生まれ変わりだと、じわじわと
杏奈の会社で開発された、最新の
俺の勤めるキャリアストロー社では、映画館へ納品している『改良型スマートメガネ』を更に改良した形でAR分野に着手しようというところだったけど、杏奈がその技術に目を付けて共同開発を申し込んでいたのだ。俺には「何か新しい開発をしている」とだけしか言わないで、今回のイベントを企画していたようだ。会社内で告知されていた「モニター募集」というのは、これの参加者を募るものだった。
「こんな回りくどいことしないで、普通に参加させてくれれば良かったのに」
「募集から外したのは、嬢がお前さんの応募用紙を偶然見つけたからじゃよ」
「杏奈が? ああいう応募用紙まで自分で見てるのか?」
「いや、普段はわしらに任せるのじゃが、ほんと偶然じゃった」
俺の応募を見て、杏奈はニヤけながら「面白いこと考えちゃった」と寿さんに言ったらしい。準備期間の関係で、モニターに体験してもらうのは正月頃だろうというスケジュールを立てていたこともあり、ならば「ノブくんの誕生日も近いわね」ということで、この企画が持ち上がったという。
ちなみに、寿さんたちは本当に双子で、二人とも杏奈の会社に勤める役員をしていた。文(技術開発)武(ムキムキ)両道の才能を活かし、今回のイベントでハプティのメンテナンスや必要な人員の手配など、幅広くサポートするよう仰せつかったと言っていた。
「VR、AR、そしてMR。どこまでがリアルで、どこからが仮想なのか。今の技術は、その辺りの差がだいぶわからなくなってきてるとは思わんか?」
「確かに」
「わしらの会社は、そこからさらに
「SR?」
「さよう。わしらは、すり替えリアリティと呼んどるけどな」
見えている現在の映像に、事前に撮ってあった過去の映像を重ねることで過去に起きた出来事を現在進行形で起こっているように見せることが出来る技術のことだと寿さんは言っていた。映像をすり替えることで、そこにいない人がいるかのような錯覚を感じることができるとかなんとか。
「あらゆるリアリティを融合させた意味も込めて、最近ではクロス・リアリティ(XR)と呼ばれておるじゃろ? わしらの会社も、その技術開発の争いに参戦しとるんじゃよ」
「なるほどね……で? 関わっていた人たちは、みんな杏奈の会社に勤めている人だったのかな?」
「嬢の部下は、わしら二人と、そこで司会してる江部くん(エベっさん)だけじゃ」
「僕は造船業を営んでいます。とは言っても、財前グループの子会社ですけどね」
今まで静かに聞き手となっていたトミーが、するりと会話に割り込んできた。手にはケーキや和菓子がてんこ盛りに乗った大皿を持っている。缶詰の時といい、彼の味覚の好みがわからない。
「おいらは、これでも役者なんだぜ」
「え? マジで?」
「そんなに驚くことはないだろ。俺の演技にすっかり騙されてたじゃねぇか」
「…………」
何も言えねぇ。
お茶の間への露出は少ない(エキストラ役とか)らしいけれど、エイジは舞台を中心に活動している役者だと言った。ハプティを使った実験で、どんな展開となるか不確定要素も多い中、上手くアドリブを駆使してその場その場を切り抜けてきたというから驚きだ。それを聞くと「さすが役者だ」と感心するしかない。
アドリブと言えば、祥子さん(に扮したタンちゃん)だ。女優の中でも指折りの演技派と評される丹野れい子だったら、納得のアドリブ力だと言わざるを得ない。しっかしまぁ、何で気づかなかったんだろう? 改めて自己嫌悪感が募ってくる。
「映像だけでは臨場感が物足りないからのぅ。今回は、ウチの社員も何人か使ったりしたわい。大道具などの仕掛けも大変じゃったぞ」
「でも、凄いと思う。ちゃんと手応えとか感じたしね」
「そうでなくっちゃ困るわい。ほっほっほ!」
映像で見せる部分、感触で脳に刺激を与える部分、本当に色々な工夫を凝らしてきたなぁと思う。会場内の隅に置かれた大きな扇風機のようなものも大道具の一つだった。さっきはアレでみんなを吹き飛ばしたという……やってることはバラエティだけど、映像の作り方次第で十分に別世界を味わうことができるもんなんだ。
「お前さんが、酒に弱いっていうのもポイントだったんだぜ」
「……?」
「少しだけ飲んだわりには、酔い方が普通じゃなかっただろ?」
「げっ! あれも仕掛けだったのか?」
「ちょっと頭がボーっとする薬を混ぜといたんだよ」
ビール瓶を片手にラッパ飲みしながら「合法だから安心しろ」と言ってるエイジの姿は信用ならないけど、神社や寺で飲んだお
頭がボーっとする薬の効果で、ハプティの映像から受ける俺の視覚情報を曖昧なものにしていたという。トミーの船を沈めたシャークロプスなんかも、実態はドローンを改良したもので、そこにハプティの映像を合わせたものだと説明してくれた。
「マジかよ……じゃあ、あれは? 海宮城へ正面から乗り込んだグループの映像とかはよ? ハプティとかいうデバイスは使えないじゃないか?」
「そりゃ、使う必要もないじゃろう」
「なんで?」
「タブレットの映像なんじゃからのう。参加者たちがワイワイやってるのはライブ映像じゃったから、彼らが付けていたハプティからの映像を見せれば良かったしのう」
「じゃ、じゃあ、その後はよ? 後半は七福神のメンバーしかいなかったぜ。派手な爆破シーンもあったけど、あれはどうなってるんだ?」
「そんなもん、録画を流しておったに決まっとるじゃろ」
「ろ……ろく、が?」
「CGも編集も思うがままじゃ。ほっほっほ!」
会場が盛大な拍手に包まれた。どうやら、表彰式も終わり閉会のセレモニーへと移ったようだ。エイジが「まだ、話足りないだろう? エベっさんの缶詰バーで二次会でもやるかい?」と皆を誘い始めた。
全く……ムチャクチャでござりますがな――。
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