転生録

エピローグ 転生

+ヴォイド・ヴィジョン+



 轟々と渦巻く雲間の中にぽっかりと浮いた、巨大な白の螺旋階段。

 冷たい風が、夕日の暖かさに留まるを許さず吹きすさんでいく祭壇の上、勇者の仲間たちの残骸が見下ろす先に、凌遅刑の果てにバラバラになったゴキブリの死体が転がっていた。

 手足をもぎ取られ、首を引き抜かれた彼の死体。顔面の剥がれたその頭が風に吹かれてコロコロと祭壇の上から海へと落ちていくのを、立ち尽くす勇者の成れの果ては、虚ろのように黒く濁った瞳で見送っていく。

 ここは図書館。

 全てのモンスターが生まれたところ。

 おぞましい悲劇の数々が刻まれてきた、あらゆる負の意志の吹き溜まりの頂上で、復讐を果たした勇者の残骸が、仲間たちの死骸を従えたまま、何も言わずにじっと風に吹かれるに身を任せていた。

 その身に刻まれた極限の苦痛。

 失う悲しみ。

 死の恐怖。

 敗北の怒り。

 灼けつくように残酷な、勇気。


 ハハハハハ……


 ザマアミロ


 どことも知れない虚空の中に、狂笑が響く。

 自分がそそのかしたクズが望んだ通り復讐を遂げたのを感じながら、かつて勇者に負けた魔王は、空を見下ろし、一人たのしく笑っていた。


 ドウダ、オマエモ苦シカッタロ!?


 痛カッタロ!?

 

 イイ気味ダ……ザマミロ……


 ハハハハハハハッ!!!


 笑う魔王は、かつてこの図書館で刻まれた数多の異能者の意思の残骸だった。ただただ純粋な悪意だけを糧に生きる、呪わしき狂気の産物だった。

 その意思は、すべての魔物に宿っている。

 痛みも、恐怖も、悪意も、力も、その全てを自らの血肉に変え生きる魔王、ゼクス。

 やがて勇者の顔が笑う。

 勇者の力を宿した魔物が笑う。

 

 アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!


 ドウダ!!


 コレデモウ、僕ハ死ナナイ!!!


 無敵ダ!!


 狂笑はどこまでも続く。

 無敵の盾イージスと、絶対に死なない悪意のキメラを従えた魔王ゼクスが、またこの異世界に再誕した。

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