第9話 狼煙
+アリアネ・ヴィジョン+
「リアン? リアンっ!!」
アリアネがいくら叫んでも、誰の声ももう答えなかった。わずかに聞こえたリアンの悲鳴を最後に、スキャナーの力が時間切れになってしまったのだろう。ダイトの二つある異能のうちの一つ”イミテーション”は、対象から能力を借りるために、オリジナルからの信頼と許可が必要となる。おそらくは本人から異能を供給されているような状態なのだろう。だから、オリジナルが死んでしまうと、さほどの時間を待たずに能力は消えてしまう。
レイアちゃん……。
やはり……私たちは泣きすぎたようだ。だがそれを悔いる時間さえ今はまったくない。
アリアネは、自分が立っていた場所の近く、それなりに目立つと思われる赤くスカスカな塔の上に素早く登り、空に向かって火炎を打ち上げた。
空中遥か、白い天井に火花が散る。
もう一発。
焦げ跡がつく。
スキャナーが使えなくなった以上、私たちは連絡が取り合えない。ならば合流こそが私たちの最優先事項となる。
……本当なら、ゴキブリにまで自分の居場所を伝えてしまうこの方法を使いたくはなかった。だけどあの男は、そもそも私たちの居場所が全部見えている可能性が高い。ならば、どっちにしたってもう手遅れなのだ。
ゴキブリにはきっと、他人の異能を奪う力がある。
それが一番恐ろしいことだった。
私たちが最初にあいつの声を聞いたのは、レイアちゃんのスキャナーが途絶えたすぐあとだった。あの時私は肉声でなく、確かにスキャナー越しに「まず、一人」という声を聞いたのだ。それに、この急激な地形変化で私たちが都合よく分断されたことといい、あいつはスキャナーをレイアちゃんから奪って使用しているとしか考えられない。しかも、あいつは相手の行動を問答無用で封じられる能力まで持っているのだ。異能を奪えるなら、ザイルの怪力も奪われていると考えたほうがいいだろう。未知の強力な飛び道具も含めて、かなりの強敵。
あの男は間違いなく……ダイトと同じ異世界人だ。ダイトはコピーで、あいつは奪取。ダイトはイージスという無敵の盾を持っていて、ゴキブリは無条件のフリーズ能力。
私一人じゃ、絶対に勝てない相手。
だけど……。
ジャケットの上から、自分の体を抱きしめる
二人以上なら……私たちにも、勝ち目はある。
目を閉じて、ゴキブリと向かい合ったあの時のことを思い出す。
あいつは……あのとき、私の動きを止めなかった。脇目も振らず斬りかかったザイルの足は止めたけれど、私に対してはあの武器を向けて威嚇するだけだったのだ。
なぜ、最初から私も捕まえなかった?
それはきっと、相手の動きを止める異能が、一度に一人にしか使えないからだ。
そういう情報共有のためにも、合流は必須だ。
だけど……。
体が、震える。
……あいつはやはり、私のところへ来るだろうか。ここに人が合流しようとすると気がついてるなら、私を狙うだろうか。
寒気がして、その場に座り込んだ。頬をこすったら、自分がまた泣いてるのがわかる。
体が
本当に、おっかないなぁ……。
あいつが捕縛できる相手は一人……それは多分、間違いない。だけど、だからって私はゴキブリに勝てるだろうか? 敵が既に手の内を全て晒したなんて考えるのは楽観的すぎる。
何かを見逃している気がして、心底寒気がした。
対策を誤れば、私もレイアちゃんと同じ目に……。
すごく、嫌な気分だ。
本当ならリアンの身を案じたい。レイアちゃんのことを、
それなのに、戦いはまだ終わっていなくて、自分もきっと命を狙われていて。
捕まったらどうなるか……それが本当に、恐ろしくて。
……さいあく、私は殺されてもいいんだ。目印を一つ残せたことで、私は最低限の仕事は果たせたと思っていい。あとはみんなに託しても、構わない……って……。
理屈じゃわかってたって、なぶり殺しにされるのが怖くないわけがないよね。
レイアちゃんの、死体。
顔。
あぁ……リアン。
ゴキブリはリアンの前に、現れた。ならば私は、リアンもすでに捕まってしまったと考えておかなくてはならないんだろうか。
だけど、それでも願わずにはいられない。
リアン……みんな……どうか無事でいて……。
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