26話 重大発表

 ゆうくんが談円社に打ち合わせに行っている頃、私はいつものように事務所に赴きレッスンを行っていた。

「ん?なんだろう、重大発表?」

 発声練習を一度切り上げて、休憩しながらスマホでSNSを見ていると『いつでも君の傍にいる』という、私も出演しているソーシャルゲームの公式アカウントが『今日の夕方、重大発表あり』という呟きをしていた。


「お~い、愛流ちょっと来てくれないか」

 と、そこでマネージャーの相羽さんがレッスン室に入ってきた。

「はーい!今行きます」

 私は、タオルや水が入ったペットボトルを持って相羽さんのデスクへ向かった。


「お待たせしました。それで、用件は?」

「おう、あんた宛にこんな封筒が届いてる」

 そう言って相羽さんから、一通の封筒を渡される。確かに宛名には私の名前が書かれていた。

「差出人は・・・あっ!」

「そう、するめいかカンパニーだ」

 するめいかカンパニーとは『いつでも君の傍にいる』を運営しているゲーム会社の名前だ。

 もしかして、さっきの重大発表に関する内容だろうか。


「さっ、とっとと見てみな」

 相羽さんにそう言われ、私は封筒の封を切る。中には『いつでも君の傍にいる、出演声優の皆様へ』とタイトルされた紙が一枚入っていた。

「えっ・・・!」

 書かれた内容を見て、言葉を失った。



「おめでとう、久しぶりのアニメ出演決定だ」




『いつでも君の傍にいる』テレビアニメ化決定!




 真ん中に大きく、テレビアニメ化のお知らせが記載されていた。そして、出演者はゲームに出演している全声優陣らしい。


「本当ですか?」

「あぁ、よかったな。待望のアニメ出演だ」

 そう、私は声優になって4年間、ほとんどアニメに出演したことがない。最後にアニメの仕事をしたのは多分3年前のデビューしたての時だろう。その時は、名前はあるにしろ一話の数秒しか登場しないほぼモブキャラのようなキャラクターだ。


「アニメの放送時期は来年の春。今から一年以上あるから、詳細は追って連絡が来るそうだけど、せっかくのチャンスだし頑張っていこうな」

「はいっ!」


 約3年ぶりのアニメ出演。すごくすごくうれしいんだけど、それ以上に不安の方が大きい。さすがに3年のブランクがあると、怖くなってしまう・・・。


「まぁ、アフレコはまだ先の話だから今からそんなに緊張するなよ」

「えっ?顔に出てますか?」

「あぁ、はっきりとな」

 相羽さんはニシッと歯を見せ笑っている。

 私もそうだけど、それと同じくらいに相羽さんも喜んでくれているんだろう。そりゃそうか、4年も売れない私を見放すことなく付き添ってくれてるんだから。

 相羽さんの為にも頑張らないと!



 レッスンも終えて、事務所からの帰路を歩いているとスマホの着信音が鳴った。


「あっ、ゆうくんだ!」

 カバンからスマホを取り出して画面を見ると、大好きな人の名前が表示されていた。


「もしもし、ゆうくん?」

「もしもし、美佳?今大丈夫だった?」

「うん、帰ってる途中だから大丈夫だよ!どうしたの?」

「発表見たよ!!いつ君アニメ化だって!」

 いつ君とは『いつも君の傍にいる』の略称だ。

「うん!そうなんだよ!もう発表されてるけど、私も出演できるんだ!」

「うんうん!もう俺すっごいうれしくて、美佳の声がアニメで聴けるなんて!あぁ、早くアニメ始まらないかなぁ・・・」

「もう、大袈裟だって!でも、ありがとね」


 相羽さんもそうだし、ゆうくんもすごく喜んでくれている。私は自分のためにも大好きな人たちのためにも頑張らなくちゃ!


「ゆうくんも打ち合わせお疲れ様!」

「うん、俺の話も家に帰ったら話すよ」

「楽しみにしてるね!じゃあ、またあとで!」


 私は電話を切り、駆け出した。

 早く帰ろう、私たちの家に。そして、いつものように自分たちの話をするんだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラノベ作家になりたい俺とヒロインになりたい嫁 アレクさん @arekusan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ