「走り屋の物語」というと、その大半が公道バトルの絡む話に落ち着くと思う。なんといっても絵面がいいし、クルマ好きな読者のほとんどは、なんだかんだいって追いかけっこが好きだったりする。
でも、それだけが「走り屋」とクルマとの「物語」なんだろうかと問われれば、そうじゃないんじゃないかとボクは思ったりする。
「走り屋」とは、競技者である以前に御者である。それぞれが自分の「馬」に思い入れを持ち、そこにさまざまなドラマを抱えているものだ。
本作の主人公もまた、自分のクルマに人生のドラマを抱えている。
走るのが好きだったはずなのに、あのひとのような「走り屋」になりたかったはずなのに、走ることに恐怖を覚えるいまの自分──…
そんな重さを背負い込んだ彼の前に現れたひとりの少女。
彼女もまた、主人公とは異なる重さを、自分の背中に背負い込んでいた。
「走ること」
その短い言葉に込められた二本のベクトル。
それがふとした弾みに交わることで、少年と少女の前に、新しい「走ること」へのゲートが開く。
ここから先は、ぜひ読み手の方がご自身の感性でもって味わってほしい。