昨今、異世界ファンタジーに現実のリアリティを織り込み、そのおかしみを強調した作品が流行しているように思う。
「境界の扉」は同じ流れを汲みながら、別の視点からアプローチした作品だと感じた。
一言で表すなら、異世界転移ファンタジーを現世側から見た雰囲気だ。
そういう作品は正直、少なくない。
しかし、転移した者が現世にコンタクトを取れるシチュエーションでの、現世側を主眼に置いた話は珍しいように思う。
現実世界は一人の人間が消えたことで大騒ぎだというのに、異世界から送られてくるのは熱に浮かされた言葉ばかりだ。
生きているらしいが、どこにいるのかもわからない。メッセージの内容は現実離れしたものばかりで、同じ言葉を話しているのに温度と感情が噛み合わない。
そのとき、現実に残された人が感じるのは狂気と、得体の知れないものに対する恐怖に違いない。淡々とした語り口の文章が、殊更に煽るよりも効果的にホラー感を演出している。
あらすじを見る限り、更に波乱があるようで、続きが楽しみだ。