第4話Barマイドゥル


 「おい!!俺達はランチAを3つだ!!」

 「私達はランチC1つと、Bを2つねー」

 

 開店と同時にたくさんの客が店に入ってくる。カウンターが8つ、テーブルが3つあるが、すぐに満席になった。

 本日のランチは3種類、オーク肉のステーキがメインのAセット、鳥のパスタとサラダのBセット、そして親子丼みたいな見た目の丼物のCセットだ。

 冒険者風の男達はオーク、ギルド職員だろうか?女性達には鳥のセットの注文が多い。

 

 「はーい、ちょっと待っててくださいね」

 

 A、B、Cなら俺でも注文をとることができる。メニューを指さされて、これ、とか言われたら注文をとれない。

 

 「お兄さんは新人さんみたいだねー、今日から?」

 「はい、ジゴローに昨日雇ってもらってお世話になってます」

 「ジゴローはああ見えても昔はいい腕の冒険者だったんだぜ!お前も色々教えてもらえ!!」

 「そうよねー、ギルドが知らない情報とか知ってたりするものねー。なーんでギルドに教えてくれないのかなー」

 

 お姉さんが恨みがましい目を厨房に向けながらフラットな口調で言う。

 

 「でも俺、もう職業一つ決まっちゃってるんで冒険者にはなれないですよ」

 「何言ってるんだお前、確かに二つの職業を持つことはできないが“転職”はできるだろう。ちなみに今の職業はなんだ?」

 「御用人ってやつです」

 

 そう言ったとたん、店がざわつき始める。

 

 「御用人?聞いたことねぇな」

 「私も知らないわ、初めて聞く職業ね」

 

 ギルドのお姉さんがそう言うと店の客の視線が自然とジゴローに集まる。

 

 「お、おい!待て!俺は何も知らないぞ、本当だ!今聞くまで零の職業は知らなかった!」

 「嘘ね。あなた、鑑定スキル持ってるでしょ、それで調べればすぐに分かったはずよ。どうせ街で見かけて鑑定してみたら面白そうな子だったから、自分の近くに置きたくなったんでしょう」

 「いや、本当だ。信じてくれよ、エレナ!」

 「なーんでギルドに報告しないのかしらァアー?!」

 

 すごい剣幕でジゴローを問いただし始めたお姉さんを見て客達がボソボソ言う。

 

 「やっぱエレナさん、怒るとめっちゃ怖いわ」

 「ジゴローの元カノ、恐るべし」

 

 「聞こえてるわよ!!!」「ひぃっ!」

 

 「ほ、ほら、ランチが出来たぞ。皆、熱いうちに食べろ、な?」

 「後で詳しく聞かせてもらうからね、まったくもう……」

 

 「エレナさん、どうしてジゴローと話してるとき、あんなに生き生きしてるんですか、もしかしてまだ好きだったり?」

 

 とか言ってからかってみたら、近くに置いてあったお盆で殴られた。痛い。

 

 「お前、命知らずにも程があるだろ……」

 

 

 

 

 「ふーっ、つっかれたァ!!」

 「お疲れさん、ほら、これでも飲め」

 

 昼の営業が終わり、店の看板を裏返す。最後まで店は客でいっぱいだった。冒険者やギルド職員、他にも家族連れやカップルなんかもいたが、隣街から来たという客には驚いた。

 

 「さてと、じゃあ零の職業についてだな。俺が知ってることは教えてやろう」

 「お願いします」

 

 ちなみにジゴローの元カノ、エレナさんはいない。昼休みが終わってしまうとかでギルドに戻っていった。

 

 「まず確認なんだが零、お前は異世界人だな?」

 「はい、オーガンっていう女神に飛ばされてきたんですよ」

 「ふむ、零の持つ御用人という職業は異世界人にしかなれないんだ。しかも転職することはできない。主な仕事については知ってるか?」

 

 たしか、ヤマツカミが

 

 「雑務を処理するのが仕事と東の森の主が言ってました」

 「お前、ヤマツカミを見たのか、あのお方はほとんど人の前に姿を現さないんだぞ。まあいいや、問題はその雑務ってのだ」

 「大変なんですか?」

 「そうだな」

 

 

 この後、ジゴローから御用人についての説明を詳しく受けた。まとめてみると……

 

 

 ・雑務というのは神が力を使うに及ばない、世界の綻びを直すこと

 ・仲間を連れて問題に対処しても良いが、最後は御用人が解決しなければならない

 ・綻びの場所は御用人が持つ腕輪に表示される

 

 

 「つまり腕輪に出た場所に行って、女神の代わりに問題を解決してくるってことだね」

 「ざっくり言うとそうだな。ちなみに前に御用人が現れたのは今からざっと二百年程前だ。ほとんど記録には残ってないが確かにいたようだ」

 「やっぱり強くならないと厳しそうだなぁ、移動とか大変そうだし。ジゴロー、ステータスってどうやって上げるの?」

 「ステータス?なんじゃそら、異世界の言葉か?」

 「え、だって職業にはレベルがあるんだよね」

 「職業レベルのことか、そんなのすぐに上がるわけないだろう」

 

 職業レベルというのは冒険者ならクエストをこなすこと、商人なら一定額稼ぐことで徐々に上がるという。

 レベルが上がると冒険者は新しいスキルが付与されたり、回復が速くなったりと、人によって恩恵が違うようだ。商人は野盗に襲われにくくなるくらいで大したことないとのこと。つまり、レベルが上がると何らかの恩恵があるわけだ。

 だが、

 

 「俺は呪いのせいでレベルが上がらないんですけど……」

 「レベルが上がらないということは今以上に強くなることはほとんど無い。新しいスキルも付与されないし、身体の変化も無しだ。御用人の仕事途中に死にたくないなら体を鍛えることだ」

 

 マジですか。明日からランニングでも始めるか、体力は基本だし。あとはギルドで採取クエストを受けてこよう。腕輪が指定した場所へ行くための旅費を貯めないと。幸い俺には鑑定スキルがあるから、普通の人がやるよりは早くクエストを終わらせることが出来るだろう。

 

 はてさて、これからどうなることやら……

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Always!三枚目の雄飛 笠原 レック(wreck) @wreckwill

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