第3話冒険者都市アゾルレン
森を抜けると、ヤマツカミが言っていた街へ続く街道があったからそこを歩く。
ここからは街道の先にある街へ行って情報収集、そしてこれからのことを考える。お金を持ってないから早く日銭を稼ぎたい。割のいい仕事があればいいんだけど、冒険者になれないのはかなり痛い。
依頼を受けて金を稼ぐのが一番楽なのだろうが、冒険者になれない俺は討伐クエストを受けられないし、採取クエストは時間がかかりそうだからパスだ。
「森で結構たくさんの冒険者に会った。彼らの話だとこの街道を西に進むとアゾルレンという街に着くようだ。街の情報を色々教えてもらったから、情報収集は後回しでも良さそう」
アゾルレンはこの辺りを支配する王国の中でも、東の森が近いために、冒険者がたくさん集まる街として有名らしい。
街の中心に街を治める役人の屋敷があり、それを囲むように貴族街、商人街、そして冒険者がいる地区が広がっているようだ。
夕方になってやっと街に着くことができた。やっぱり冒険者ギルドは見てみたいな、異世界といえばコレって感じだし、もしかしたらうまく働き口が見つかるかもしれない。まずはギルドの場所をきいてみるか。
「すいません、冒険者ギルドってどこにあるんですか?この街は初めてで分からなくて……」
「おう坊主!ギルドに行きたいのか。ちょうど俺もギルドに行くところだ、連れて行ってやるよ」
彼はこの街でバーを経営していて、ギルドに買い出しに行く途中だったそうだ。
「市場で売ってる食材もいいが、肉はギルドが一番だ。処理がしっかりしてあるし鮮度がいい。おまけに安いからな」
確かに歩いてる途中にあった市場の商品は、保存がきくものが多かった。農家っぽい人が売っていた野菜は新鮮そうだったな、多分、街の近くに畑があるのだろう。お金の単位は“オーガン”、あの女神の名前と同じだった。
「ここが冒険者ギルドだ、どうだ、立派だろ」
石造り三階建ての建物で正面の入口には門番が二人、武器を持って立っている。どちらも強そうだ。
一階がクエスト受付、二階が大衆食堂、そして三階がギルドマスターと職員の事務所になっている。裏口へ行くとそこはギルド市場の入口になっていて、中では討伐された魔物や獣の解体が行われ、肉を買いに多くの人が列を作って待っていた。
「建物も立派だが、なんと言ってもここのギルドは装飾が素晴らしい!アゾルレンで一番の職人が作ったんだ。俺の店にも来てもらいたいが、いい値段するんだよなぁ……」
「ええ、素晴らしい装飾ですね。凄く緻密で、これを人が作ったとは驚きです」
職人の仕事にも驚いたが、もっと驚いたことがある。
「文字が読めねぇ……」
始めから普通に日本語が通じていたから気にしていなかったが、ここは異世界、言語が違っていて当然なのだ。
だが、このまま文字が読めないままでは稼ぎのいい仕事を見つけるどころか、仕事につけない可能性もある。
実際、ギルドの依頼掲示板を見ても、
『Lbtfjivcptzvdzvv!』とか
『Jovhbojhfub,tbhbtjuflvsf』とか
『Lbobjopjlbsjxptjavnfuflvsf!!Jfojibjsfobj!!』
全く何書いてるのか分からん。
「おい坊主、お前もしかして文字が読めないのか?それでは誰も雇ってくれないぞ。今夜の宿は決まってんのか?まさか無一文じゃねぇだろうな」
「そのまさかです」
腹が減った。昨日の夜、わっほいを食べてから何も口にしていない。
そもそも俺の所持品といえば、ヤマツカミが別れる時にくれたナイフと指輪、そして元々腕にはまっていて取れない銀色の腕輪くらいだ。
「仕方ない。おい、俺の店で働く気はないか?小さなバーだが二階の部屋を貸してやる。一日三食、給料は部屋代、食事代を引いて月十万オーガンにしてやる。どうだ?」
給料が安いのか高いのかは分からないが、寝る場所と食事が三食ついてくる。無一文の俺には十分過ぎる提案だ。
「その条件でお願いします。えっと……」
「俺の名前はジゴローだ」
「よろしくお願いしますジゴローさん。俺の名前は遠山 零、零って呼んで下さい」
「最初はきついだろうがすぐに慣れるだろう、頑張ってくれ。零には文字も教えてやる、メニューを読めなかったら使えないからな。あと、俺のことはジゴローでいい、ジゴローさんはむず痒い……」
ジゴローの店はバーというよりは、イギリスのパブに近い。昼も営業していて、ランチメニューなんかもあるらしい。昼頃に店を開け、三時に一旦店を閉めて、日が暮れてからまた店を開けて朝まで営業するという。
俺が店に出るのは昼から三時まで、夜は文字の勉強をすることになった。
入り組んだ路地の奥にランプに照らされ、ひっそりと掲げられた看板。
『Nbjexvsv』
「ようこそ俺のバー、マイドゥルへ!!歓迎するぜ!」
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