第6話 運命の絆

きっと次に感じるのも痛みだろうと思った。

でも、同時にそれが人生最後の痛みだともわかっていた。

なのに見えたのは、ニールが自分目掛けて飛び降りる姿だった。

「なっ!?」

何か言う前にはもう彼の身体は宙に舞って、非難の言葉より先に抱き込まれた。

「ライダ!!!!!」

声の後ガクンッと衝撃が来た。

「止ま……た」

「ふふ、空賊がこの程度の高さでビビってたらな。生活できねぇよ。それに」

宙ぶらりんの身体が上昇を始める。引き上げられているらしい。

ニールはこちらを見てニッと笑った。

「絶対掴むって言ったろ?」

その顔を見て、力が抜ける。何故だかホッとしてしまう。

「レン!!!!」

窓から引き上げられてゼフが抱きついてくる。

「無事だな!?怪我は!?よかった!!すっげぇ心配したんだからな!!」

「ゼ、フ。苦しい」

「ニール、よくやった。」

上にいた3人が引き上げてくれたようだ。

ゼフは、無事でよかったと言って離してくれない。その身体は震えていた。

「ゼフ、どこか痛いのか?」

「違うわ!!レンが死んじゃうかと思って!怖かったんだよ!!ビビったの!!」

言われてさらにぎゅーっと抱きしめられる。苦しくて、でも嬉しくて。

「おいお前!!危ないことしてんなよ!!!どれだけ迷惑かける気だよ!!!」

突然響いた怒鳴り声に驚いて、ゼフに抱きつく。

「ラ、ライダさん」

「ライダ。」

「でも親方!!」

「ライダさん、レンは怖いだけなんですよ。俺もそうだったでしょ?」

「ゼフはこんなに迷惑かけなかったろ」

「俺は、助けてもらったってわかってたし」

「だからってな!!!」

怒鳴り声に、ゼフの服を握りしめる。

「あ、あんたに助けてなんて、頼んでない!!!ニ、ニールに頼んだ!!」

口から出たのは、自分でも驚く内容だった。

周りも唖然としている。

「レン。大丈夫だよ」

ゼフがそう言うが大丈夫なわけない。必死になって睨み返す。

「ライダ、俺も怪我ねぇし。レンも、俺らがそこまで悪いやつじゃねぇって分かってくれたろうし、な?」

言っては見たが、それでも釈然としないらしいライダ。肩をすくめて苦笑いだ。

「また、ライダったら怒鳴ってるのね。」

響いた声は

「ニナ!」

「えーっと、レンくん?ごめんね。こいついつでも怒鳴ってるからあんまり気にしちゃダメよ?」

「おい!別にいつも怒鳴ってはないだろ!」

「ほら怒鳴ってる。」

「なっ!」

そのあとも何か言おうとしたらしい口は、結局何も発する事無く閉じられた。

その様子に周りがニヤニヤと笑った。

「さてと。レンくん。私はニナ。さっきは助けてくれようとしてくれてありがとう」

にっこりと笑った彼女はレンの頭を優しく撫でた。

「な、んで」

呟いた言葉はまた別の声に搔き消える

「おーい!!あー!!いたいたー!!よかったー!」

「コール先生!」

「たく、すごく心配したぞー。」

短髪でガタイのいい青年は、人懐っこい笑顔を見せてレンの頭を撫でる。

「痛みは?大丈夫か?」

ゼフが離してくれないのでその手をはたき落とすことしかできなかった。

「無い。痛く……無い」

「あてて、まだ平気みたいだな。でも、薬切れたらまたぶり返すから」

「え?」

その言葉に耳を疑う。

そんな馬鹿な。痛みはもう感じない。

なら共鳴しなければ良いはずだ。

「医務室戻ろうぜ。もう一個点滴終わったら探検していいからさ」

「コール先生。」

「ん?お……と。あー」

きっと痛みが無いのを喜んでいたはずだ。保護したウェポンズ達は、みんな喜んでいたから。

「あのな?俺は、運命の絆が結ばれるまで、痛みを軽減することしかできねぇんだ」

いつも伝えるのが辛い。

本当の意味で痛みを消すにはウェポンズの絆を見つけなければならない。

「大丈夫!レンの運命の絆も、きっと直ぐに見つかるよ!」

そう言ってゼフが笑う。

「馬鹿馬鹿しい……何が運命だ」

目の前が暗い。限界が近いのは自分が一番わかっている。死が迫って来ている。

「レーン」

呟いた後。静かに。そのくせ少し楽しそうな雰囲気の声が聞こえて

「心配すんな。絶対。見つけてやるからさ」

笑った顔は酷く綺麗だった。

この表情を見ると、信じそうになる。

何か言おうとして、次の瞬間走った痛みに呻く。

「レン!」

「切れたか!医務室行くぞ!!担架!!」

コールが腕を伸ばす。

「さ、わ……な、で」

白衣があの濁った眼を思い出させる。恐怖が浮かんで必死に声を絞り出す。

「レン!コール先生は」

涙がにじむ目を閉じて必死に耐えてるようで。その姿が余りにも儚くて。押しのけるように声を出した

「レン!俺ならいい!?」

ゼフを遮って聞こえたニールの声に、その腕を掴んだ。

「っ……い……たい」

涙が溢れる。

「レン」

優しい声を最後にレンの意識は途切れた。




「起きない」

「アーックス」

あれから3日目の昼。穏やかな午後に響くのは、呻き声。

「お前なぁ毎日毎日何度も同じ事言うな」

「そうだけどーそうなんですけどー」

「ニールを見習えっての」

言われて隣にいるニールに目線を落とす。

酷く辛そうな表情をしている。自分は痛くないはずなのに。痛そうで。

眠っているレンが唸るとさらに眉間にシワが寄る。

「ニール、心配すんなよ。親方がレンの親とユーザー探してんだろ?きっと見つかる」

「あぁ……そうだよな」

コールの言葉は聞こえているようだが、心配で仕方ないようで。

「じゃまた1時間したら見に来るな?部屋にいるから、もしレンが目ぇ醒ましたら呼んでくれ」

言い残して部屋へと戻っていった。

「レン……」

小さな身体は軽かった。今まで保護した中でも状態が悪い。

助けてやりたい。親も覚えてはいないかもしれないが、家族のところに返して、運命の絆と幸せになって欲しい。

「ニールさん」

「なんだ?」

「……あてもない絆探ししても、絶対見つかんないですよ」

「は?お前…親友が心配じゃねぇのかよ」

「心配です!!だから言ってんでしょ!!」

叫んだ途端にニールが振り向き立ち上がる。

187cmの長身に見下ろされて、その威圧感に息をのんだ。

それでも確信はあったし、空回りしてもいいことはないしと理由を付けて、震える唇に力を入れる。

「レンのユーザーはニールさんですよ、絶対!」

少しの間が空き、聞こえてきたのは

「は?」

気の抜けた声。

「だって、変だと思わないんですか?レンは最初、呪符を巻かれていたんですよ?しかも金属製の箱に入れられていた。なのにニールさんは声が聞こえた。ニールさんだけには聞こえてた。」

「それは」

「それに!いくら気を付けていたって言え、窓が閉まった状態で15m離れた外にいるレンの声が聞こえたなんて。しかも風があんなに吹いていたのに」

ここまで言っても目線をそらして。

「たまたま、だろ?」

否定する。イライラする。

「…………なんで否定するんです?レンじゃ不満だって言うんですか?」

言った瞬間、身体が壁に叩きつけられた。

「今……なんつった……?」

ギラギラと炎が瞳の奥で揺れている。それはまさに怒りで。

「っ……そんなに。そんなにレンを想っているのに!なんで否定するんですか!?」

自分たちは、ずっと夢に見ていた。だから、ユアーが、自分のユーザーが現れてくれて自分は救われた。心の底から嬉しかった。

「俺は俺のウェポンズを護れなかった。だから」

ニールの過去は知っていた。だからこそ、他の人は言わないのだろうけど。このままでいいことが起こらないのも事実だ。

「その子が運命の相手だったわけじゃ無いですよね」

「だからなんだ?だからって護れなかった事実は変わらない、俺は護れなかったんだ」

「でも!」

「こ、こは?」

小さな声。

紅い瞳がボンヤリと宙を彷徨う。

「レン」

「ゼ、フ?」

薬が効いていてボンヤリとしたまま。焦点も上手く合わない。

「レン、あのね」

「あ、いつ……は?」

誰かを探しているのか、また宙を視線が彷徨った。

「あいつって?」

「にー、る?」

溢れるように聞こえた名前。

「ニールさんは」

「あい、つは……いいな……」

「え?」

「あ、いつは、優しい…し。あった、かいし……きっと…あいつ、のウェポンズは……幸せ……だろう、な。」

今にも寝てしまいそうな声。でもなんだか嬉しそうにも聞こえる。まるで幸せな夢を噛みしめているような。うっとりと。柔らかい声だった。

「いいな、あ……ゼフの…ユーザー、も……いい。」

「ユアーのこと?」

「ん、や……さしい、匂いが……した。」

「レンにも見つかる。きっとすぐにな」

「ニールがいい」

その言葉だけがやけにはっきりと聞こえた気がした。

「に、るがいい……こ、れから……どっか、から……出て、くる……誰かは、やだ」

小さな声はぼんやりと、でも確かに意思を持って。

「なら、ニールさんに言ってみたら?」

「ダ、メだ」

回答に驚く。

「なんで?」

「だ、て……こん、な……使い、古し……あいつ…だって、嫌だ、ろ」

「そんなこと」

「あいつ、には……そ、だな……綺麗な……綺麗、な。ウ、ポンズが……アル、ナ姉、とかが……きっと……」

どこを見ているのかわからない瞳にうっすらと涙の膜が張るのが見える。

「いいな……う、ん……。」

掠れた声がポツリポツリと訴える言葉。

「ニ、る…言った、ら、俺選んで、くれる……かな」

希望と不安

「嫌だろ、な…でも、きっと……優し、から……ちょっとは、付き合って……くれ、るかな……でも」

「レン、レン。ちょっと寝よう?な?」

「ゼ、フ?」

「ん?」

「……つた、えて?あり……がとって、」

「レンが自分で言ったら?」

「……ん、」

「探して来てやる、な?」

「……う、ん…少し、も、少し寝、たら……きっと」

ゆっくり瞼が落ちて、寝息が聞こえて来た。



部屋の片隅に灯った炎は、しかし近くの壁や机を柔らかく照らすだけで、ニールが座ったベッドは暗いままだった。

「……カッコ悪…」

頭の中に浮かぶ声は、寂しさを滲ませながらも嬉しそうだった。

「はぁー」

ベッドに倒れ込んで腕の隙間から天井を見つめる。

自分は、レンに何もしてやれない。

いや、本当は何だってしてあげられるのに、しない事を選んでるだけだ。しかも自分の勇気がないだけ。

小さな頃の、棘を未だに抜けずにいる。

でも、自分を変えるなら今だ。

ニールは、ベッドから立ち上がった。


目を開けても暗いままだった。

ボヤけた視界で少しして、自分が泣いていたことに気がついた。

溢れた涙を拭こうとして身体が動かない。重いのだ。指先すら重たくて。全身が悲鳴を上げている。

このまま死ぬんだと思ってまた、涙が溢れていく。

「だ、れか……誰か……た、すけて」

夜に痛みが酷くなると無性に悲しくなる。

何のために生まれたのだろうか。

分からないが、こんな風に苦しむ為じゃないと思う。死ぬ為じゃないと思う。

「はっ……な、で……なん、で」

「レン?」

声がして、驚きながらも目を開けると

「ニ、ル……?な、で?」

「レンが泣いてる気がしてな」

そう言って微笑むと、溢れた涙を指が払ってくれる。

「は?」

「冗談です、ごめんなさい。本当はレンの寝顔が見たくてな、ってあれ?これはこれでダメだな。変態ぽい」

そんなことを笑って言うから、なんだかこっちまで笑ってしまう。

「へ、んな、こと言う、のな……あ、んた……?……な、んだ?」

「いやー、レンが笑ってくれたなぁっと思って。可愛い」

そう言って笑みを深めた。意味がわからなくて睨む。

「あらら、睨むなよー可愛い顔が台無しにだぞー」

そう言って彼の指先が、眉間に寄ったシワを優しく撫でる。

「可愛くない」

「えー」

言い返して見ても、クスクスと柔らかく笑いながら、拗ねた様な声を出すだけだった。

そこでふと気がつく。ユーザーが大っ嫌いな自分の警戒をニールはするりと抜けて、何気ない顔している。そして自分もそれに対して恐怖や嫌悪がない。

「ねぇ、レン?」

「?」

「あー……うん」

「なん、だ?」

「あー、えっと、な?俺の」

ニールの言葉を遮る様にブザー音が響いた。

部屋の中に直接放送されている訳ではない様だが、話を中断させるには十分だった。

「なに?」

「大丈夫。ちょっと待ってな?」

言いながらレンの頭を撫で、ベッドを離れた。

扉を開けるとブザー音が大きくなる。すぐにコールの姿が見えた。

「先生!!」

「ニール来てたのか?」

「なんの騒ぎだ!?」

「それが軍の戦艦がこっちに向かって来てるらしい」

「は!?それってまさか」

扉を振り返る。

レンを連れて来た時、軍はあからさまに嫌がっていた。

「ここがバレてんの?」

「分からんが、主戦力は集められてる。そしてニールお前はレン君を連れてC8キャンプへ避難だ」

「え!?」

「急げ、準備するぞ」

そう言ってコールは扉を開ける。

突然入って来たコールにレンがビクついた

「ごめんなレン君。でも非常事態だ。ニール手伝え!そっちのシーツ取ってくれ、あと毛布!」

「や、触る、な」

「待ってくれコール、俺も戦う!」

「あ!?」

「俺だって戦える!」

そこまで言って

「じゃあレンはどうすんだ!」

聞こえた怒鳴り声に振り向くと

「親方」

「言ったろ!お前が責任持って盗むんだってな!!お前が戦ってる間レンはどうすんだ!」

「コ、コール先生が付いてたほうが」

「俺は戦えないよ!?」

「C8キャンプは特に設備が整ってる。コール先生も後から行くが、お前が守ってやらなけりゃ軍に連れ戻されるかその場でか。どっちにしろ殺されるぞ」

その言葉に血の気が引いた。もし襲われたら。ベッドの上で、息をするのも辛そうな子供は無抵抗のまま。

「……お前が責任持って盗んだんだろう?」

「…………あぁ」

「ならちゃんとしろ」

「わかってる……でも、家族を置いて」

「……はぁ…馬鹿野郎!!お前に心配されんでも逃げ切るわ!!」

ニッと笑った大男にニールは盛大なため息をつく。そうだった。目の前の男は、何度も何度も軍の猛追を逃れた。奇跡の男だった。

「っ……あぁそうかよ!!」

そう言い捨てて、レンのベッドに近づく。

言い合いの間もコールが準備を進めていたいたらしくレンは不安そうな表情を浮かべている。

「レーン、大丈夫だからな。ちょーと散歩だ、散歩。」

にっこり笑いかければ、レンは眉を寄せる。

「あらら。」

「ニール、よく聴け。C8キャンプまで半日かそこらだろ?点滴も入れたし平気だと思うが一応の薬だ。」

コールが注射器を見せて言う。

「俺は残りの必要なもの持ったら直ぐに後を追うから、真っ直ぐキャンプに向かえ」

「了解!さて、レン?外ちょっと寒いから毛布巻くぞ?」

レンを抱き上げて、毛布で包む。その上からシーツを縛る

「レン苦しくないか?」

少しの不安を映した瞳で、それでも頷いたのを見て撫でる。

「さ、ミノムシ君。散歩行こうぜ」

「ミ、ノムシ?」

「あー、今度見せてやるよ。まさに今のレンみたいだから」

笑って話をしながら部屋を出た。

入り組んだ通路を進んで階段を降りて行く。

「な、んで……助け、る?」

聞こえた声に足が止まった。

「え?」

「……俺を、ど、かに置いて……みんなで逃げれば、いい……」

小さな声はユーザーを信じないという意思を示していたが、どこか寂しそうで泣き声にも近い気がした。

「うーん。俺が守りたいから、かな?」

言った瞬間、下にある避難口が開く大きな音がして、バタバタと足音も響いて来た。

「っ……マジか?」

「ニールさん!!!」

「なんだアックスか」

「違います!!!上がってください!!!」

アックスの声の後下から爆発音が聞こえ風圧が襲って来た。

「クッソ!!!」

来た道を駆け戻る。背後からは複数の足音が響いている。出てきたばかりの扉を戻り鍵をかける。

「アックス!行くぞ!時間は稼げる!!」

「はい!!」

廊下を走り別の出口へ向かう。が前から軍服が現れた。

「うっそだろ!?」

「居たぞ!!捕らえろ!!」

「だぁあぁぁああ!!!ユアー!!」

「アックス、ニールこっちだ!!」

声の方を見ると、

「あー!!隠し通路!!」

「待て!!!!」

家の壁の内側。人ひとりがやっと通れる程度の通路が張り巡らされている。入り口は数カ所ありパスコードで施錠されている。緊急時の最終避難通路だ。

身体のスレスレを流れる銃弾を無視して、なだれ込むように入り扉を閉める。一瞬で視界は暗闇に包まれるが、足元のボンヤリとした灯りが、徐々に目を慣れさせた。

「こっちだ」

親方の声に従って動くため、体制を整える。

「レン、一回毛布外すぞ。おんぶに変更な」

軽い体を背負い、細い通路を進み始めた。

自分の心音の煩さが、緊迫した雰囲気に飲まれそうな身体を、動かしてくれる。

「大丈夫だからな」

口にして、レンにも自分にも言い聞かせる。安心してくれればいいと思った。しかし

「に、る……」

聴こえてきたのは震えた小さな声。

「……助けて……頼むから…助け、」

銃声や怒鳴り声。煙の匂い。自分自身の身体は動かない状態で、怖かったに違いない。

「大丈夫。絶対、絶対大丈夫だ」

保護したとき、身体中に痣や傷跡が有って、

日頃から暴力を受けていたのではないかとコールは言っていた。

軍には絶対に連れて行かせない。そう思った次の瞬間背後から爆風に襲われた。

「っ!?」

「うわぁ!!!!」

周りの音は殆ど聴こえなかった。耳鳴りがしてる。前に倒れた身体を起こそうとしてやけに重い。

「っ……あ、アックス!!」

背後にいたアックスが咄嗟にレンを庇おうとして覆いかぶさったらしい。

「おい!!!アックス!!!!」

相当な声を上げて居るはずなのに音が遠い。声を出しながらレンの無事を確認する。

ようやく動いたアックスが、小さく口を動かした。違う何か言ったのだろうが、聞こえない。耳が爆音でおかしくなっているらしい。

状況がわかったアックスが、大きく口を動かしてくれる。

「(大丈夫です。レンも無事ですから急いでここから出て行きましょう)」

言葉を見ながら立ち上がった瞬間、今度は前から強い風を感じた。そしてそこからは、あっという間に銃を持った兵士達に囲まれた

「クッソ、」

聴力が正常に戻ったのは良いが、状況は最悪だ。嫌な汗が噴出している。武器でも持ってれば話は別だが、隙を見てとも行かない状況だ。

「ネズミ共をようやく追い詰めたな」

聞いたことのある声に視線を向けると、間違いなくレンを盗んだ時にいた男だ。

「手間のかかる事をさせやがって……まぁ良い。そのウェポンズをこちらに引き渡せ。そうすればお前達の命までは取らない」

「やっぱレン狙いだよな」

「こんな弱り切った子にまだ用があるのか!?」

「ふん、お前らとは設備が違う!!メンテナンスで、いくらでも修理できるんだよ。」

その言葉が嫌に神経を逆撫でした

「修……理?」

「お前達には手の余る武器だ。さっさと引き渡せ!!!!」

全身が震えた。

今まで、これ程の怒りを感じた事はない。軍のやり方は知っていた。

「誰が……」

それでも一定の配慮とか思い入れはあると思っていた。でも違うのだ。目の前にいる男は、本気でこの子を道具だとしか思っていない。

「誰が!!」

こんな奴に渡せない。絶対に渡せない。

「誰がテメェ等なんかに渡すかよ!!!!」


銃口が向けられて。命と天秤にかけられて。もう終わったと思った。このまま軍に戻されて、殺される。そう思った。

なのに、響いたのは強い声だった。

目が覚めてからずっと、この声は優しくレンを呼び続けてくれた。この大きな手は、レンに優しく触れてくれた。

この人の側でなら、最後の瞬間に自分は本当にレンとして笑えるかもしれない。

「ならば死ね!ネズミ共!!」

銃声が鳴った。

しかし銃弾が目標に当たることはなかった。

「な……に?」

優しい温かさに包まれていた。

「レン!?」

ゼフの声に目を開けた。ニール達を包むように光が舞い踊っている。

「これって」

「ニール、俺を使え」

背中から聞こえた声に身体が強張った。

「心配ない。今まで何人に合わせてきたと思う?完璧にあんたに合わせてやる」

「そうじゃねぇだろ!!無茶だ!!」

「死にたいのか!?」

「な!そうじゃない」

「なら使え!!!そのあと…そのあと死んでも恨んだりしない。むしろ感謝する。軍から連れ出してくれた。ユーザーも悪い奴だけじゃないって示してくれた。だから、だからまだ希望がある。」

「レン」

「ゼ……アックスも助けて、また会わせてくれた。」

「それは俺の力だけじゃない」

「それでも……それでもあんたなら……俺は自分から力を貸したい。だから」

「ニールさん!!」

アックスの声に、レンを降ろして小さなその手を取った。

「心配するな。俺がまだ生きててあんたのウェポンズが見つかったら、何も言わずにいなくなる」

そう言って笑った彼を撫でた。

「いいや、レン。俺のウェポンズは、俺の運命の絆は間違いなくレンだ!!だから、俺に力を貸してくれ!!!」

その言葉に驚いたという顔をして、それからゆっくりと笑顔になったレンに、心が満たされるの感じた。


一瞬で光が溢れ

その手には美しい剣が握られていた。


「行くぞ、レン!」

『あぁ!!』


痛みは消えた。

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マクガフィン 月輝陽炎 @Kagero6426

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