その紅蓮、獣の如く。
何故あたし達が火に優れた血筋であるかは、その刀の呪いだ。かつて
殺しに関しては剣の才は元々ある血筋のようだし、盗みの方は門外漢な上、そんな部分を伸ばす力を与えれば、また神格が下がってしまうだろう馬鹿たれがと無視された。当たり前である。
そうして鬼討として、
赤嶺とは、戦い続ける者。例えこの世から百鬼が消え、永遠の平穏が訪れようとも、それでも我々は、戦い続けなければならない。この身に流れる罪の血に負けない為、決して
振るい続けるのだ。あの山の如く、その身が赤く染まって果てるまで。
そう今も語り継がれる赤嶺家の家訓及び、赤嶺組での気構えを残した、初代赤嶺家当主赤嶺
いや、妖刀へ堕落させた身分で言えた事では無いのだが、兎に角厄介な力を持ってしまっていたのである。
それは強力だが、野放しにしておくには余りに危険だと、獣如様はその力をコントロール出来ないか、試行錯誤に明け暮れる。完成されたその
「一応神刀よ? 一度神格は失ってるから、限り無く妖刀に近い力を持ち合わせてもいるけどね」
再び燃え始めた焔ノ穂先を、脇に垂らしながらあたしは言う。
一番合戦は依然、目を見開いていた。きっと右手は火傷を通り越し、黒く炭化しているだろう。焔ノ穂先、こいつの本来の力は、百鬼だろうと簡単に触れていいようなものじゃない。
神でありながら、百鬼に落とされた恨みを抱える
妖刀でありながら、百鬼を払う為に生み出されたその刃と、赤猫でありながら鬼討でもあろうとした、何とも哀れで優しい、お人好しなあんたにね。
「……やめろ」
「あら、今時まず見ない代物だし、復習でもしてみる? 『
「やめろと言ったんだ赤嶺」
「絶対に嫌よ」
やっぱり知ってるか。
断言しながら、頭の隅で思う。
あんたも、常時帯刀者だものね。赤猫でも。
小さく燃え続けていた焔ノ穂先の火が、静かに消える。露わになった刀身は、黒く濁り果てていた。
浴びせられ続けてきたその
重ね続けた赤嶺の罪を表すような、底の見えない暗闇へ。
ぶった斬って、焼き払ってあげるわ。二度と立ち上がれないような、炭のような真っ黒に。
「……悪いけれど、本気で斬るわよ。一番合戦」
右手で柄を握り、身体の中心線に構えたあたしは、息を吸う。
同時にこちらへ飛び出した一番合戦が、目の端に映った。
「――刃名、『
刀身から再び火が噴き出し、熱く景色が燃え上がる。
それは不吉な赤だった。普通の火では無いと、きっと誰しも、一目で分かると思う。
血を零したような、深紅をしているのだ。
赤嶺の名の由来となる、その蛮行を表しているらしい。人目を気にしなくていい場所ならぺらぺら喋る、お喋り好きなこいつ自身が言っていた。
黒い刀身は
鞘名、焔ノ穂先。刃名、
妖刀として神格を落としてしまった際に付いてしまった、マイナス的な力だろう。本来神とは真摯に祈れば、大抵の願いは聞き入れてくれる。誠意を示す為にどれぐらいの期間で、指定した時間に毎日お参りをしに来なさいとか、手に入れるのが難しいお供え物を、頑張って集めて来なさいとか、手間はかかるけれど命は取らず、ただその願いを抱える人間の、覚悟や性質を測る為の試練を課せはするものの、それが出来ればまあ大体。あるいは、いつもあなたはお参りをしに来てくれているからそのお礼に、何か願いを叶えてあげましょうとか。
戦いと鍛冶の神様であったこいつも元々は、そういう形で人々に力を貸していただろう。でも赤嶺が乱暴に扱った所為でその力は変質してしまい、それは悪魔的と言うか、手っ取り早い形になる。
――長ったらしい試練も、面倒なお参りや供物集めも、必要無い。払うものさえ用意してくれれば、その望みがどれ程醜く愚かであろうと、喜んで手を貸そう。人間性だって問いはしない。その身という代価さえ、しっかり払ってくれるなら。
何にでも例外とは付き物だがまあ、大抵のものは斬り伏せて、焼き飛ばせるぞ。きちんと払ってくれるなら。
焔ノ穂先も、
当たり前のように地から養分を吸い上げ、ぶくぶくと肥え太っていく稲穂のようで、放つは命を喰らって生まれる、死の炎。
腐っても神だ。それも戦いと鍛冶を司る。百鬼に落ちようとその力は、並みの一〇〇年かかって作り上げられる、元は物体であった
赤嶺家とは、枝野と並ぶ程の古い家。その最初の神刀が重ねて来た時は、ざっと数えても六〇〇年。
悪いけれど、得物で負ける気はしないわよ。
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