だからあたしは剣を取る。


 ……あァ、そういう事。

 昼間の作戦会議が脳裏を駆けていく様を、あたしは見送りながら辟易する。


 慎重に使えって事だったのね。この時を。


 ここを逃せば二度と無い、一番合戦と話せる最後のチャンス。そこをどう使うかで、一番合戦のく末は勿論、この町、あたし達の未来も決まる。だから慎重に、冷静に、訴えかけねばならないと。

 いや、ちゃんと分かってたつもりだし、宥めるつもりでここに来た。見失ってはいない。今だってこんな馬鹿みたいな事、さっさとやめにして九鬼君達と合流したいわ。

 でも今の切り出し方は、とても正解とは思えない。


 追い詰めるように言ってしまった。

 まるでこいつが、全部悪いみたいに言ってしまった。

 違うとちゃんと、分かっているのに。


 ……あんたには冷静さが足りない。そう言いたかったのね。豊住。

 浅く短気で、何も見えてない子供だと。


「だから、ちゃんとあのお兄さんと話をしなさい」


 だからって、今更振り返らなければ、言い直しもしないあたしは、強く一番合戦を見据える。

 何かの撮影じゃあるまいし、言い直しなんて出来なくて当たり前。振り返った所で、言った事も変わらない。言い過ぎたからごめんなさいって? まさか。政治家じゃあるまいし、先程の発言は撤回しますなんてボケた台詞で本気でチャラに出来ると思ってる程人間嘗めてないし驕ってないし、本当にただ謝っただけで済む事なんて、この世に無いのよ? 言葉なんて所詮形式。その形式に、どれ程思いが籠っているかで初めて値が付く。

 本当にそう感じて、内から自然に出た言葉なら、初めて本物で、本当になれるのよ。思っても無いくせに後の段取りがどうだからとか我が身可愛さに、上辺だけの言葉を吐くなんて冗談じゃない。そういう小汚い事は、もう少し大人になってからでいいわ。現にあたしは、失敗したとは思ってるけれど、全く謝りたいなんて思ってない。

 だってこれだって、本当なんだもの。


 確かに言葉選びは最悪。切り出し方だってホントに最低。体裁はもう一〇〇点満点中〇点で間違い無いわ。でもその見た目ズタボロな中身は、どこを取っても本物だし、そんな下手な言い方を選んだあたしの心だって本物よ。諭すなんて立派な事、大人じゃないあたしには出来ないわ。

 だってちゃんとしなきゃって分かってるのに、こんなに心は逆巻さかまいてる。


「……うじうじ言ってないで、逸らしっ放しのその目ぇ向けなさいよ」


 大人じゃないあたしは、剥き出しの怒りをぶつける。

 その余裕をもったスカした態度が、どうしても気に入らない。


「いー事教えてあげるわ。人生ってのはね、手を抜いた瞬間死んで、手を抜いた瞬間に負けるのよ。常にその身にあるもの全てを懸けて、全力で挑まなきゃいけないの。他の誰の為でもない、その道を生きる自分の為に。あんた今、必死なんでしょ? 何にも周り見えてないんでしょ? あの日怪物になってから、今日までずっと。訳分かんないし誰にも言えないし、それでも一人でここまで来たんでしょ? もう二度と、誰も悲しませないようにって。その信念を、自分で壊す気? ここまで一人で耐えて来たのに。馬鹿馬鹿しい事言ってんじゃないわよ、ええ確かにあんたはひとりぼっちだったわ。あんたと同じ人生なんて、死んでも歩みたいなんて思わない。でも今は、違うじゃない。少なくとも一人聞いてくれる人が、去年からずっとあんたの側にいたでしょう? あの人はずっと、あんたが話してくれるのを待ってるわ。何で今まで言ってくれなかったんだって、今もあんたの代わりに戦いながら待ってるわ。……あんたに足りないのはここよ。一番合戦。あんたは、人を信じ、頼る覚悟が全く足りない。馬鹿丁寧に諭してやる義理なんか全く無いわ――。ただ怖い道は回れ右して、とんだ見当違いで楽な方選んでるだけじゃない。申し訳無くて言えないってんなら、別にあたしが聞いてもいいわよ。友達でも無ければ気を遣うような仲よしでもないんだし、壁に向かって話してんのと同じでしょ? 言っとくけれど、あたしはそんな道、絶対認めないからね。そんな、自分の生き方を貶すような選択は。繰り返さないようにって、一生懸命やって来たのにその信念を――その誇りを、魂を、自分で殺すような道なんて、絶対に認めない」


 逃げるな。一番合戦。


 今がどれ程辛く、死にたい程に苦しくとも。


 どれだけ迷い悩もうと、投げ出しはしなかったのがあんたでしょう? 分からなくて一度は背を向けても、それでも決断しようと再び駆けたのがあんたでしょう?

 例えその先に矢張り答えは見つからなくて、辛い選択ばかりに迫られても、それでもここまで、たった一人でやって来た。


 なのにここで見失って、自分で自分を殺すような事しないでよ。


「勝負しなさい。一番合戦」


 動揺ばかり滲ませて、何も言えなくなってる馬鹿を目で射抜く。



「そういう辛い時にこそ立ち向かって、勝って行かねばならないのが人生よ。……それに、あんたをもう死なせないって、あんたの相棒と誓ったからね」



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