人生が上手くいかないなんて、確かに当然だけれど。
「味が無いのを単純と言うからね」
豊住は笑った。
同時にこいつは、本当に九鬼君が嫌いなんだなと思う。さっきまで、あんなに芝居臭い挑発的な態度でいたくせに、彼が離れた途端普通に話す。幾ら炎刀殺しとは言え、鬼討のあたしを相手にしながら。
まあ天敵の犬でもあるから、カリカリしてそんなもんか。一度は負けてるみたいだし。
「まあそこはいいでしょう。今に始まった話でも無いし。それで、どうあの人を追い込むかだけれど」
「まずはどう説得させるかじゃないの」
何を性根の悪い事をさらりと切り出しているんだか。
「んー。まあ、考えてもいいけれど、不毛だよ? 絶対聞かないし」
「不毛って。……そんなの、やってみないと」
豊住は手を振ると、あたしの言葉を遮るように言う。
「あーいやそういう意味じゃあなくって。頑固なんだよ。一番合戦さん。あんまりあの人の事、知らない?」
「……まあ確かに、ちょこっと話した審査日以来、会うのは結構久々だからね」
この町には昨日の夕方やって来たばかりだし、ぶっちゃけその辺に関しては部外者も同然だ。審査日に一番合戦とはちょっとした
お手本みたいな動きをすると思った。型にはまってつまらないという意味では無く、何度も何度も練習したと、努力が分かる動きを。決して基本を
そんな頭を使わないで出来る動きに、殺意は無かったとはいえ攻撃を防がれた瞬間は、言いようの無い驚きと怒りと、屈辱を覚えたものだ。
審査の結果が出て、帰る間際の事。あいつも受かっていた事を知って、勝負をしろと言ったけれど、相手もせずに帰ろうとしたあいつの背に、ついカッとなって斬りかかった。
生まれてこの方、一度だけだ。あんなみっともない事。今思い返しても、本当に恥ずかしい。ただ振り向かせる為とは言え、背を向けている相手に斬りかかるなんて。審査直後に起きたこの騒動で、あたしは取得日中にその資格を剥奪されかけるという、また別の意味での最速を得る所だった。
あの時も事を上手く収めたのはあいつで、つまらない口論が過熱してしまった故の事であり、あたしだけを責めるのはどうか許して下さいと、帰り支度をしている所に起きた騒ぎに駆け付けた審査員達に、何の迷いも無く謝罪した。お行儀よく頭まで下げて。
その殊勝な態度と、すぐに剣を収めた事、そして、まだあたし達が一五であるという考慮から審査員達は、腕は十分だからこれからは、心の鍛錬に重きを置いてみなさいという注意だけで、その場は見逃してくれた。有望な後進を潰してしまうのは惜しいとも、考えられた処置だと思う。
常時帯刀者になるとは役人になる訳では無いが、審査は国、つまり、護国衆が行うものなので、未来の護国衆を担ってくれるかもしれないあたし達に、期待している部分も大きかっただろう。ましてあたしは、護国衆在籍者の鬼討を輩出する赤嶺だ。正直、多少の我が儘は、見逃して貰える。
……本当に馬鹿だったわね。あたし。
言葉を重ねる程に、愚かしさしか浮き出ない。
……一番合戦は審査の前に
何でわざわざ審査する人間に反抗的な態度を示すのか妙で堪らなかったけれど、今なら分かるわ。入りたくなんかないわよね。そりゃあ。
となるとあれなのかしら。性格が合ってないのは分かってるけれど、あいつあたしの事、相当嫌いなのかもね。護国衆への協力に熱心な、赤嶺家の人間なんて。
でも変えていかないと、未来とは繰り返すのよ。一番合戦。
どれだけ愚かで、腐った集団に成り下がって、昔と変わらないようなお上の好き勝手かもしれないけれど、だからって放っておいちゃ、またあの大火を繰り返す。
あの鬼討みたいに、誰かが変えて行かなきゃならない。どれだけ周りに相手にされなくて、何度やってもまるで上手くいかなくても。だってあんたが化けて出る程慕った人は、そういう人達だったでしょ?
見失っているのか、目を逸らしているのかは分からないけれど、でもそれは、とも寂しい事よ。
それを上手く捉えられていなくてもそれでも、やっぱりあんたはそうしてちゃんと、弱者や困ってる誰かの為に、確かに戦って来てるのに。
……普通の奴より上手くいってないじゃない。天才のくせに。
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