三六〇年越しの戦いを
□
「人間のお前達に、私達の気持ちは分からない。私はお前達の助けを必要としていないし、周りにどう思われようと、この人生をやっている本人として、この道が最も正しいと信じてる。人の生き方に、文句は
「まァね」
苦々しくて、腹立たしくて、心から同意した。
「どいつもこいつも
「思う事だけなら結構さ」
一番合戦は、吐き捨てるように冷めて言う。
「知った事では無いからな。どう生きようかと決める時、周りや誰かの言葉なんて。結局最後は、
「ハッ」
あたしは今度こそ、心から嗤った。
「知ってるわよ、そんなもん」
■
「そうさ。化け物になったって、僕は人間だよ。自分で決めた事なんだ、どっちもやめるつもりなんて微塵も無い。だから、人間でもある犬野郎として、元鬼討として、一番合戦さんと共に戦うと誓った相棒として、この三六〇年にけじめを付ける。君と一番合戦さんをもう二度と、
「ハッ」
銀は、頭を横に傾けて嗤う。
その背中からゆらゆらと、
「何だぁてめえ? 犬の分際で、白の相棒を語ろうってか。中途半端な出来損ないの分際で……。天下の赤猫に、喧嘩を売ろうってのかい」
□
「そもそもあんたの正体なんてどうでもいいんだけれど? 九鬼君の事もね。何があろうとあんたはあんたで、あたしはあたし。あんたが赤猫? あの明暦の大火を起こし、火を司る百鬼では間違い無く最強の大妖怪? 上等じゃない。敵ってのは強い程面白い。あたしは、
笑みが止まらなかった。不謹慎とは分かっているけれど。
これが、どれ程意味のある戦いか。しっかり考えたから、少しは分かっているつもり。
それでも、どきどきが止まらない。
戦えるのよ? 一番合戦
勝ち負けじゃなくて、別の目的があるとは分かっているけれど、でもそれでも。
思わぬ形でこんな最高な舞台も用意されて、燃えない奴がこの世にいる?
あたしは真っ直ぐにあいつを見据えたまま、剣に手をかける。
「あたし達はこの選択がベストだと思ってる。あんたもこれが、本当に譲れない道だと言うのなら、全てを以て、それを証明してみせなさい。その人生に値段を付けられるのは、自分自身なんだから」
「……分からないさ。そんなもの」
一番合戦も、腕を解きながら言った。
「どう生きるべきだったのかなんて。そんなの、今でも分からないままだけれど……。――ここでお前如きに、時間を取られる訳にはいかないな」
月を照り返したあいつの剣が、銀色に光って闇に浮く。
ゆっくりと鞘から放たれていくその様で、空気が加速度的に張り詰める。
■
二三時三〇分。
一番合戦さんと銀が、待ち合わせに決めていた時刻であり、僕達の作戦の開始時刻だ。きっと今がそうだろう。
でももう、時間を確かめる暇は無い。
そもそもこの戦いに、合図や期限は要らないのだ。
全ては既に、三六〇年前、あの冬の日に、始まっている。
足を軽く開いた。
張り詰めていく空気に、押し潰されそうになる。
「……望まれてなんかなくたって、僕は一番合戦さんを守るよ。一緒に背負うって、あの日に誓ったんだ」
「俺との約束が先だ馬鹿野郎」
吐き捨てる銀は、両手をズボンのポケットから抜いた。
「俺はあいつと、二度と奪われねえように、てめえらみてえなクソ共から逃げるんだ。てめえみてえな生意気なガキに関わって……。二度とあいつが苦しまねえようになあ!」
突然銀の右手が発火したと思うと、その赤は尾を引き、宙を舞う。
銀は頭上高くに跳ぶと、それを僕の脳天めがけ振り上げた。
勝たなくていい。戦意を削げ。説得するかバテさせろ。
時間稼ぎは上手くやるから、そっちは任せたよ。赤嶺さん。
僕はこの作戦の要である赤嶺さんに全てを託すよう、噛ませ犬として遠慮無く、迎え撃とうと踏み出した。
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