過ぎ行く誓い
言葉を返さず突っ立っていると、慌ててこちらに近付いて来る。
おい聞いたか……!? あちこちで、妙な死体が見つかってるってよ! お前もこんな時にうろうろしてねえで、
銀はびっくりして黙り込んだ。そして、暫くそのまま固まると漸く口を開く。
……思い出したのか? 自分の事……。
面倒なお前の事もな。いつも見つけたら絡んできて……。
……そうか……。お前、この先どうすんだ?
まあ、もう人の振りはうんざりだよな。先の事は考えていないけれど……。
――逃げねえか。一緒に。
遮るように、銀は言った。
またいつもの軽口だろうか。そう思ってあしらおうとした自分を、
俺ぁ親が
――後で取りに来るから、これでも持って先に行ってろ。
道楽者のお前と違って、私は挨拶周りがあるんだ。黙って行ってしまうのは胸が痛む。
それは、おばさんに貰ったものだった。今は似合わなくなったから使ってないけれど、あんたぐらいの娘さんならぴったりさと。
銀はまた動かなくなると、漸く言葉の意味が分かったのか、固くなっていた表情をぱあっと崩した。
……お、おお、そうだな! 親父さん達にも、一言言わにゃあ流石にな……!
明日の昼に出るから、お前も家があるなら、荷物を纏めたり何なりしてろ。
えっ、昼う!? 今からじゃねえのかよ!?
何浮かれてんだお前……。色々あるんだよ。どこに行きたいかは、お前に任せるさ。
そ、そうかぁ? へへ。そうだなあ……。あったかい所に行きてえなあ。俺ぁこの町から出た事ぁ殆ど無えが、江戸は寒いらしい。……上野。取り敢えず、上野で待ってるよ。何回か遊びに行った事があるんだ。どんな所かちょっとは知ってるし、知り合いもいるしな。猫だけど。
そうか。私はここを出た事が無いから、名前を出されても全く分からないけれど、海を渡られでもしない限り、見つけられるから大丈夫だ。この化け物の鼻は、よっぽどに利くらしい。……今更だがお前、私が幾ら道を変えても現れたのは、これがあったからだろ?
えっ、あ、ああいや、それは……。
いいから、その、うえの? とやらに行ってろ。後で追い付く。
あ、ああ。分かった。待ってるよ。絶対来るんだぞ。
分かったよ。
あんまり遅かったら、探しに行くからな。
おいおい。人を付け回すのも大概にしろよ。
馬鹿言ってんじゃねえ――。銀はぶすっとして言うと、懐に簪をしまった。
じゃあ、しっかり預かっとくからな。
……ああ。
その言葉を最後に私達は、背を向けて歩き出す。
――馬鹿な
そして今度こそ、銀やおじさん達、馴染みのお客さんと鉢合わせしないように、江戸の町を回り始めた。
どこをどう燃やせば、この腐った町を潰せるのかと。
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