罰から始まるこの道を
「強い者は全部自分が引き受ければ、皆が幸せになると思ってるから己を省みない。……というのがお前の、私や先輩に対する意見かな。まあ確かに半分当たってはいるが、完全に自分を捨てているなんて事は有り得ないぞ? これでも色々と悩んでる。先輩だってそれしか方法が無かったからって、絶対に悩んださ。鬼討だろうとまだ高校生だぞ? やりたくないって思っただろうし、死にたくないとも絶対に思った。やりたい事だって沢山あるのに、何でまた自分がって。私だってブラックドッグが現れたと聞いた時、お前や豊住の前では気丈に振る舞っていたつもりだが、生きた心地がしなかったぞ。死にたくないと思った。家族に知られたらもう耐えられないから、自分の部屋にいる間だけひたすら考えた。考えたと言うか、恐怖したか。打開策を練るのではなく、延々どうしようかと戦いた。もう
そう言うと一番合戦さんは、困ったように微笑んだ。
そうか。怖かったんだ。先輩も、一番合戦さんも。人間なんだから。
どこかで勝手に思い込んでた。天才や超人には、普通の人の感覚なんて分からないって。悔やんだり責めたり自分の事ばっかりで、先輩の気持ちなんて全然考えてなかった。
「……言ってくれればいいのに」
鈍感な僕は苦笑する。
「そんな事を言ったら余計心配するだろう」
一番合戦さんは口を尖らせた。
揃いも揃って、意地っ張りな人達だ。
「まあ自分の事で精一杯で、周囲に配慮が欠けていたのも事実だ。まだまだ精進が足りん。お前にそこまで心配を……っと、別に、私個人に思い入れは無いのか」
「あ、ああいやえっと……」
色々言葉は浮かんだけれど、一番正直な部分を汲み取って。
「……心配したよ。一番合戦さんの事」
「そうか」
一番合戦さんは、さっぱり笑った。
「まあ今後は気を付ける。謙遜したって、誰だって心配してくれる人がいるんだからな。豊住にだって随分無理を……」
一番合戦さんははっとすると、表情を曇らせて黙ってしまった。
「……一番合戦さん?」
「ああ悪い。違うんだ、その……。……お前には感謝している。ありがとう。助けてくれて」
気丈に笑ってみせるが、明らかに影があった。
一番合戦さんにとって豊住さんは、やっぱり友達だったんだろう。例え凶悪な百鬼であろうとも。
百鬼に同情なんて、本当に鬼討失格だけれど。
でもこの優しさがあったから、彼女は鬼討になった。
「この件はまた落ち着いたら話すとしてだ。お前もその先輩の事、いつまでも気に病むなよ。仕方無かったんだから」
「仕方無かったねえ……。確かにそうだけれど、そんなに簡単に切り替えられないよ。やっぱり僕は、先輩や一番合戦さんみたいに、どんな運命も受け入れられる程強くない」
「お前は鈍感だな」
一番合戦さんは呆れて笑う。
「ただ受け入れた私や先輩よりも、私が死ぬ運命を変えてみせた、お前の方がよっぽど強い。君を選んで正解だったと、私は常に思ってる。だったか? 先輩はお前なら、いつかその話も乗り越えられると信じていたから、何も言わず一人で戦ったんだと、戦えたんだと私は思う。そんな誰も納得してくれないような道を選べたのは、命を懸ける覚悟が出来たのは、いつだってその先輩の味方だった、お前がいたからなんじゃないのか。きっとお前達は、最期まで共に戦ってたよ」
この子は本当に、鬼討になるに当たって、特別な理由が無かったんだろうな。
何の飾り気も無く、こんなに強い言葉を言えるんだから。こんなにも強く、人を救う事が出来るんだから。
もう落ち込むのはふとした時とか、寝る前ぐらいにしておこう。一番合戦さんの前では、嫌でも前を向かされてしまう。背負える覚悟があるのか悩む前に、背負って行くしかないと急かしてくる。
過去なんて関係無い。誰しも悩みながら、今を歩くしかないんだと。
「じゃあ今度は、君と一緒に戦うよ」
君を悪だと断じる鬼討から、命を懸けて守ってみせる。君が僕を守る為、この世の全ての鬼討を敵に回したように。
「今度こそ、ちゃんと分け合ってな」
示し合わせたように、僕達は改めて名を名乗る。
「一番合戦
「九鬼
差し出した互いの手を、僕らは強く握った。
今更だけれど、一番合戦さんのフルネームを知らなかった事に気付く。
それでよく、イチバンガッセンカガリを知っているかと尋ねて来たブラックドッグを、迷わず彼女に結び付けられたなと呆れた。
違っていたらどれだけの恥をかいていた事か。当たっていてもこれだったのだから、本当に救えない。
いや、不幸中の幸いか。
今が一番最悪だけれど、案外そこまで、悪くない。
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