盛者必衰
「百鬼で最も厄介な種類は何でしょう」
帰り道。内心舞い上がっていた僕を現実に引き戻すように、先輩は切り出した。
解散前恒例の、お勉強タイムである。雑談みたいな体で教えてくれるけれど、内容は鬼討をするにタメになるものばかりで、まだまだ未熟者の僕にはありがたい。
例えば百鬼独特の力関係、最近では狐と犬の話を聞いた。その鼻のよさから
鬼討でも神刀を使う者、使い魔を使役する者など流派があり、百鬼の獣、
このようにとてもありがたいのだけれど、内心舞い上がっていた僕に、答えなど浮かぶ筈も無く。
「えっ? ええっと……」
「答えは新種」
隣を歩く先輩は、すぐに正解を示す。真面目モードに入って話に集中しており、無様な僕の理由には気付いていない。
「百鬼とは人が語る事によって生まれ、語り継がれる時間が寿命となる。誰もその存在を信じなくなってしまえば、あっさりと消えてしまうものだけれど、神や仏を信じている限り、まだまだ絶滅は先だろうね。神様なんていないって、多分日本人なら結構言う人いそうだけれど、反面願掛けとか平気でやるし。だからその対の存在である、怪談も未だに語られる。まあ私達の
「先輩は相手取った事があるんですか?」
「まさか。九鬼くん置いて行った事無いんだし、九鬼くんが無いなら私も無いよ。枝野家の歴史上なら何件かはあったらしいけど、どれも大昔だし。お母さんとかとこういう話する?」
「しない……ですね。九鬼家自体遭遇した事もないですし、教えを受ける事も出来ません」
父は一般家庭の人で、母の生家である九鬼家に婿入りしている。
先輩は標語みたいに言って、足を止めると僕を指差した。
「兎に角。単独行動、ダメ絶対」
「した事無いですよ」
僕は笑顔で応える。
鬼討に生まれた以上、家督を継ぐ事に特別な理由は必要無い。戦う理由があるとすれば、それでも鬼討である理由を問うならば、それはもう、あなたを守る為に、鬼討になったようなものである。
「ま、私も無いけどね。それでなくとも、一人ぼっちは寂しいもんさ――」
近道をしようと、公園を抜けようとした時だった。広場の噴水を横切った僕達の目の前に、死体が落ちていると気付いたのは。
五体満足でありながら、既にその身に魂あらず。
前面を切り刻まれ、自らの血に沈むその手が握るのは、五〇を数える傘下の中でも指折りの古株であり、枝野家と並ぶ歴史を持つ家の、無残に叩き折られた神刀だった。
これが、刀と当主を同時に失った、
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