25
惹役
いつかみたいに、朝の七時に学校で。
あれから、赤嶺さんとの合流を経た後でだろう。一番合戦さんから、そういった内容のメールが届いていた。
その翌日、僕は黒犬との、早朝から夜明け前に時間を繰り上げた散歩を済ませた
場所は、いつかのように教室ではなく、屋上で。
施錠されていて立ち入れない状態が普段だが、ピッキングで開けたのだろう。待ち合わせ時間にはいつもぴったりに現れる一番合戦さんだが、今日はその作業を考えてか、僕より先にそこにいた。高い柵に凭れる事もせず、ドアを開いてすぐ目に飛び込んでくるように、丁度屋上の真ん中辺りで。
少し雲は多いけれど、快晴な夏の空だった。
「よ」
ひょいと、片手を挙げて挨拶される。
「今日は早いんだね」
僕は後ろに回した手でドアを閉めながら、数歩歩くと立ち止まった。
「遅刻魔みたいに言うなよ。私はいつも、時間ぴったりに来るじゃないか」
「言ったら、ほんとにその通りに動くもんね。一番合戦さんって」
「……何か馬鹿にしてないか」
「してないしてない」
少しむくれた一番合戦さんは、態度を改めると腕を組む。
「……あれから赤嶺には、放課後まで町の警戒を任せて貰ってる。自分はもう夏休みだから、授業がある奴は出ろだとさ」
「赤嶺さんも、ほんとはまだ授業あるんだけれどね……」
「まあ馬鹿だからな。丁度いい獲物が来たって、嬉々として出て行ったよ。探し回るにもまずこの辺の地理を知らないから、頻繁にメールが来るが。道迷ったとか、田舎だから何も無さ過ぎて、目印が無くて道覚えにくいとか。……あいつ期末試験終わると同時に飛び出して来たみたいで、あの制服ぐらいしか服持ってないんだよ。そんな格好で学校も行かないで朝早くからうろついてたら補導されるから、交番の前は通るなって最低限教えといた」
「え? あんなに大きな荷物持ってたのに?」
「あの中身は、膨大な数の手配書と、全国の怪談や百鬼を記した資料ぐらいしか入ってないよ。服は……というか、日用品は、替えの制服ぐらいだ。あと財布とか通帳とか、貴重品。期末試験が終わって帰宅したその足で、資料は倉からとして、他の物は自分の部屋にあるものから取り敢えず集めて、全部突っ込んだら飛び出して来たらしい」
「す、すごいね……」
「あほだ」
一番合戦さんは心の底から吐き捨てた。
何の為に交換した連絡先なんだか。
一番合戦さんはそう呟くと、疲れたように嘆息する。
「……ま、今はいいんだけどな。そんな話は」
蝉の声に耳を傾けているのだろうか。
丁度僕の家がある山の方を眺めながら、一番合戦さんは切り出す。
「私はお前を疑った事は無いよ。昨日までは。いや、薄々分かってはいたから、今更疑うと言うか、確認みたいなものだったが。簡単に口にしたい話でもないし、こうして一旦、話し合う時間を取るべきだとも、まあ分かってた」
「……何の話?」
「『
僕を一瞥すると、一番合戦さんは言った。
「人を魅了し、惑わせるのは、百鬼の性質だ。魔が差す、なんて言葉があるように、人心を乱すのは百鬼そのものを表すようなもので、そもそもそういう力を奴らは持ってる。人が非科学的な怪談や噂話を、何故だか聞いたり話したくなるように。有り得ないって思ってるくせに、まだどこかで信じてるだろ? 幽霊とか、占いとか。その
僕は耳を疑う。
「何で……。いつから……知ってたの?」
「お前が引っ越して来た日からずーっとだ。私を探しているブラックドッグが、お前に私の居所を尋ねたと聞いた時からな」
一番合戦さんは景色に目を向けているままで、何ら勿体振らずに答えた。
「確かに個体差はあると言えど、従者は主に尽くそうとするものだ。今お前達が分かり難い姿ながらも、しっかり主従として成り立っているように。主が変わろうと
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