09
真相
常時帯刀者でない鬼討でも、常に帯刀出来る方法がある。
常時帯刀許可令。元締めの当主のみが発令出来るもので、非常時に限り腕に限らず、全ての鬼討はどこに行こうと、帯刀を許可される命令だ。
原則として発令した元締めが管理する地域内でのみ有効とされるが、発令条件となっている事案の危険度から、特別帯刀証という元締めの判が押された札を持っていれば、地域外でも常時帯刀を許されるものである。
先輩の父であり枝野家の現当主、枝野
話を戻そう。
夜な夜な現れては、強い鬼討の前面を斬り刻む
後に周知の事実となるが、犯人は一人の辻斬の百鬼だ。正体を掴む事が出来なかったのは、自身が語り手である、オリジナルの百鬼だったから。存在を知るのは語り手だけ。どう語ろうと自由自在。
己で語り、己の力だけで存在しうる百鬼とは、本来異例なのだ。百鬼とはあくまで人に知られ、人に語られる事で生きる。それを必要とせず存在しようとすれば、最早常軌を逸したと言って過言無い、その物語への凄まじい執念、言い換えるなら、願望や不満が必要となる。今回はただ、強者を求め彷徨い歩く、狂った剣客が百鬼となっただけの話だ。
気が触れているのだ。常人に納得出来るような説明など、最初から無い。
そもそも触れでもしない限り、化けて出るなど出来はしない。まともな不満や後悔程度で百鬼になれるのなら、この世はとっくに百鬼夜行だ。
奴の唯一の撃退方法は、その地で最も強い鬼討が、一対一で倒す事。
発現条件は夜を
条件を揃える為に被害者達は、単身で姿を消す。知られてしまえば相方達や他の鬼討が、必ず助太刀しようとしてしまうから。
相方達は知っていたのだ。相棒がその百鬼とこれから戦うと知っていて、敢えて一人で向かう事を許し、誰にもこの事を話さないと約束した。戦う前から分かってしまう程、その百鬼は強かったから。現に枝野の傘下を、八つも潰す。成瀬家が最初に潰された時点で見えていたのだ。対抗しうる力を持つのは、枝野しか無いと。
名家成瀬の当主を傷一つ受けず倒してみせた辻斬に、単身我らが主を差し出すのか。だから相方達は、絶対に口を割らなかったのだ。先輩が地面に両手を着いて、頭を下げて懇願するまで。
当時弱冠一七歳。百鬼退治、六〇〇回連続成功。先日当代の記録を越えたばかりの稀代の剣客は、こうして組と町の未来の為、百鬼と相討ち命を散らす。その戦いを知る者は誰もおらず、既に屍と化した先輩と辻斬が、その凄まじさを物語っていた。親にさえ何も言わず、置き手紙すら無し。
事件の全貌が露わになり、議論は腐る程された。他の誰かが戦っていればよかったのではないか。何も先輩が死ななくてもよかったのではないか。どうしてこんな事になったのか。誰かが気付けていれば、こんな事にはならなかったのではないか。
こういう問答こそを先輩は嫌っただろう。でも残された者達にとって、その代償は余りにも大きく、手放しで受け入れられるものではなかった。何かせめて、区切りらしいものでもないと。幸いにも、非難の対象ははっきりしていた。
まず成瀬家当主の相方、笹原
無論当代様は罰など与える気などまるで無く、組を纏めようと尽力していたものの、一人娘を失い、とてもいつもの手腕を発揮出来る状態ではなかった。子供を失うと同時に元締めの神童が敗れるという、ある種の傘下達に対する権威も確実に喪失しており、組の統制は完全に崩壊する。成瀬に続き笹原も長く枝野に仕える家で、何らかの形で罰せなければ贔屓ではないかという目もあり、議論が終える前に混乱に乗じ、笹原
そして、今や全ての悪の根元である辻斬説を唱えたのは、先輩の相方であり、辻斬との決闘に向かう直前まで、行動を共にしていた唯一の人間。僕だ。
何故単独行動を許したのか。
何故他の鬼討に相談しなかったのか。
これだから若輩者は。だから任せるべきではなかったのだ我々ならきちんと枝野様を守ってみせた。
お前の所為だ。
お前の所為だ。
枝野様が死んだのはお前の所為だ。お前が枝野様を殺したのだ。全部お前が悪いんだ。
分かってるよ。そんな事。
そんな事、誰よりも分かってる。
でも、僕を選んだ先輩が馬鹿だったみたいな言い方は許さないし、僕だってこんな結末受け入れられない。
一人で動いちゃ駄目だって言ったじゃないか。何で何も言ってくれなかったんだ。あんな大袈裟な嘘までついて。僕を選んで正しかったといつも思っていたんなら、最後の最後で置いて行かないでよ。
一人は寂しいって、言ってたじゃないか。
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