第12話


 朝食を食べ終えて、食後の一時。

 ふとある事を思い出して、私はシルバーさんに尋ねて見ることにした。


「ところでシルバーさん、結局なんで夢の中ではオパーイがあったんですか? 

 まさかシルバーさんの女子になりたいという執念が発生させた明晰夢とか……っ!?」


 最後言葉が詰まったのは私が興奮したからではなくて、頭頂部にシルバーさんの唐竹割りが炸裂したからです。 

 あんまり勢いないのに的確に痛い所に当ててくるあたり、シルバーさんの人体への理解度が半端ないと思いますのよクローさんは。


「とりあえずちょっと頭に来たから一撃御見舞いしたけど、もう一撃ほしいのかしら?」


「いやいや痛いのはノーサンキューですってば、それじゃあ結局どういう事だったんですか? そこのヴァルさんも絡繰仕掛けがどーのって言ってましたけど」


 ヴァルさん……という呟きが向こうから聞こえた気がしたけれど気にしない……って微妙に微笑んでるんですけどもしかして嬉しかったんですか略称呼び?


「あー、ヴァルゲイトは結構仲良くされるの好きよ? 見た目怖いから人間嫌いとか思われやすいけど。」


 あ、ヴァルさんが珈琲吹いた。とりあえず台拭きとククルゥちゃんのナメクジを渡しておく。


『おいちょっとまてなんでオレまで渡されてんだって止めろ!! あ――体に珈琲が! 体表からの粘膜珈琲摂取は急性カフェイン中毒で危険――!!』


 神秘のナメクジでもカフェイン中毒になるのかな、まぁヴァルさん砂糖ダバダバ入れてたから浸透圧の差で酷いことになるかもしれないけど。


 とまあそんな事はともかくシルバーさん、さっさと御回答をどうぞ、なるべくわかりやすくね。


「……クローちゃん、思考で訪ねるの止めなさいね? ええと、そうねぇ……突拍子もない話だから、信じて貰えないかもしれないけど……」



「はぁ? 空飛ぶ球体モンスターとか神秘のバケモノとか喋るナメクジが居るのに今更何をカマトトぶってんですかこのオカマ、いいからさっさとゲロしなさい五文字以内句読点含まずハイどうぞ!」



「それは無理」



 諦めマッハですか。


「で、まぁ五文字以内はともかく、結論としては物語ならありきたりな事よ、私の能力、主に錬金術で作り上げた絡繰仕掛けの機械人形よ。」


 錬金術……たしか、卑金属を貴金属に変換することを目的とした試みの事だっけ。


「そう、広義では金属に限らない万物、更には人体や魂の理解や完全なる物の錬成すらも求める、ある意味でいうのなら、神を目指すような物よね。」


 ふむふむ、そういえばホムンクルスとか賢者の石とか、その辺りも錬金術絡みの言葉だったっけ。


「その中で、人体の理解と様々な機械機構への探求、魂の解析とその定着技法等を用いて造り上げたのが、私やヴァルゲイト、ククルゥの体である絡繰義体と言うわけ。」


 ふむふむ……なるほど……って、え!?


「シルバーさんって、人間じゃないんですか!?」


 ここに来て明かされる衝撃の事実! 洋館に住まう美人風女装メイド服男かと思っていたら洋館に住まう美人風錬金術師サイボーグですって!? ただでさえ属性盛り過ぎなのにこれ以上は属性モリモリ森蘭丸ですよ!! ほら蘭丸ってよく女装男子にさせられますし。


「なんだか方々に土下座必要なこと考えてそうだけど、人外、と一言で済ませられるかは難しいところね」


 たとえば、と、人差し指を立てたシルバーさんが続ける。


「腕を失くしたから義手に、歯が折れたからインプラントに、膝の軟骨がすり減ったから人工関節にしたりするわよね? でもそれをしたからって、その人は人間のままよね」


じゃあ、と繋げ


「それを繰り返して、もし体の全てが……脳に至るまで人工物に置き換わったとしたら、その人は人間では無いのかしら?」


 ……何が言いたいのかは、分かる。


「難しい所だけど、否と答えるべき所よね。たとえ体が機械人形になったとしても、その精神と魂が人のものであるのなら、それは正しく人間として扱われるべきだもの」


 そう告げるシルバーさんの瞳は、何時になく真剣で、でも何処か寂しそうに見えた気がした。


「……ええと、話は難しいですけど、つまり、シルバーさんはシルバーさんって事ですよね?」


 なんだか照れくささと気まずさで、少し茶化した様な言い方になってしまうのは、私の良くない癖かもなと、そう思う。


「……ええ、そういう事。だから変に考えないで、私やヴァルゲイト、ククルゥには、今まで通り、人として接して頂戴な」


 頭を撫でられた。……むぅ、嫌ではないですけど、子供扱いされてるみたいで複雑。

 でもまぁ、シルバーさんに対する接し方は今まで通りで良いということなので、私としては今回の件は、そこに居る新しい友人が二人増えたってだけの事、ヴァルさんとククルゥちゃんとククルゥちゃんそっくりな女の子……って、んん!?


「あれ!? ククルゥちゃんが二人いる!?」


 視線を向けた先には、ヴァルさんの肩に座るような姿勢でこちらを見つめる、ククルゥちゃんそっくりの少女。


 ただ、明確に異なる違いがある、それは……


 瞳が、紅い。


 そう、まるで夢の中で見た時の様に、その双眸を真紅に染め上げている、銀髪の少女がそこにいた。


 少女は私の視線に気付くと、その真紅の瞳で狂気じみた笑みを浮かべ、鋸の様な歯の並んだ口を開く。


『オイオイ、ついさっきも話してたじゃねぇか、見た目が変わった程度で驚くなって』


 そこから発せられる声音は、確かについ先程も聞いた記憶のある響き。と言うか、間違いない、この少女の正体は――


「ナメクジーーーーーー!!」



『ぎぃぃゃぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!!?』






 全力で塩を投げつけたのは悪かったと、半分以下に縮んだ少女を見て少しだけ反省したのでした。






 



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シルクロード 神在月 @kamiarituki

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