マッドカンパニー①

<紀元3000年水無月15日>

「ですからこの発明が生まれたのです。他社の発明品じゃありません。わが社のオリジナルです。今までは後れを取っていましたが―――――」

白衣の研究員がまくしたてる。聞いている側である華ちゃんはげんなりとした顔をしながらも相槌をうち、殊勝に聴いているように見えるが――――

ヒートアップし続ける研究員からは見えない位置で携帯端末でメールを打っている。マナーとしては最悪だが、正直私もこいつには辟易していたので注意はしない。




「――――ああおっしゃらないで!わかりますから―――」

長い、くどい、興味ない。3拍子揃った完全無欠の無駄話だ。何も言ってないのに無理やり質問に答えたていで話が長くなるとかどんな拷問だよ。開始から3時間。いいかげん我慢の限界だったころ、会話に割り込むように声が響く。

「―――またあなたですか……両馬君。」

――――桔梗ちゃんが立っていた。修羅みたいな顔で。声を掛けられた両馬研究員は老朽化したロボットみたいな動きで振り向き、そして―――




「あなたに命じたのはうちの妹と伯母の案内です。それはわかっていますね?」

掠れた声で両馬研究員がはいと答えるのを遮るように桔梗ちゃんが続ける。

「で、あなたの開発した商品の紹介なんて誰が命じたんです?」

そこからは一方的な試合だった。いや、最初から一方的だったか。

華ちゃんからメールで報告チクられて呼ばれた上司にこってり絞られた彼は明らかに沈んだ顔で本来の持ち場に帰って行ったのだった。

「――――減俸3か月、と。」

無慈悲に桔梗ちゃんが告げる。鬼だこのヒト。

「クビでいいんじゃないですか?」

華ちゃんからはもっとひどい発言が飛び出したが。相当に苛立っていたらしい。

「あんなのでも優秀な人材なの。素行はよろしくないけどね。」

「―――それで、何で突然会社に呼んだんですか?」

「試作品の試験をしてほしいの」

そういって通された部屋はいかにも研究所といった感じ。ここは向野グループの保有する科学研究所。桔梗ちゃんはここの所長さんだ。部屋の中央のテーブルに置かれているのは―――

「―――ここって兵器開発もしてましたっけ。」

「普段はしてないわ。しようと思えばできるけどね。」

『技術の兵器転用か。感心はしないな。』

「こんな状況ですから。四の五の言ってられませんよ。」

研究所の総力を挙げてあの獣を打倒する兵器を開発しているのだろう。

それにしたって数日で兵器が完成するとは―――

まさか普段から―――?

―――――いや、考えないでおこう…

「試してほしいのはこれね。いい意味でも悪い意味でもな代物じゃないから――」

「確かに私か師匠なら大概だいじょうぶですけど……」

言い方ってもんがあるんじゃないだろうか。華ちゃんも明らかに引いている。

「えっと、開発ナンバーはBS-01、開発コードは『ジャッジメンター』?コレ作ったの誰?―――呉主任、また中二病か……」

そんなぼやきと共に取り出された試作品は見た感じ、拳銃。

「じゃっじめんたー?」

『たぶん造語。裁きを下す人、てきな意味合いでいいと思うけど。』

「ふーん。長いんでサバってよんでいいです?」

本当に興味なさそうに華ちゃんは言った。その口ぶりに、今までの会話を横で聞いていた呉主任は哀れにも泣き崩れてしまった。多分万感の思いと共に名付けたのだろうが――

「いいですよ。妙な造語よりは断然。」

桔梗ちゃんは肯定することで呉主任にとどめを刺してしまった……。

彼女はそんなこと気にも留めずに華ちゃんにジャッジメンター、改めサバを手渡す。

「―――ん。重いですね。」

「できる限りの軽量化はしたんですがね。我々の技術ではそれが限界です。」

呉主任、立ち直りはやいな?驚くべきことに華ちゃんが感想を述べた瞬間に再起動して語りだしたのだ。

「とにかくあれの核を破壊できるよう、貫通力を強化しました。重量が増してしまいましたが―――ギリギリ常人の使える範囲内です。」

そう言って主任は部屋の奥に設置されていた射撃訓練用の的をサバで撃ち抜く。

『反動が少ないな。火薬を新造したのか?』

使

私の呟きを桔梗ちゃんが否定する。

「BS-01―――サバは、携行型電磁加速砲です」

消音機とかどうでもよくなるくらいとんでもないものだった。

――――拳銃サイズの電磁加速砲レールガン?マジで?

―――ああ、裁くものってそういう。

なり、それは古来においては神の裁きと考えられていた。それでそんな名前を―――



―――呉主任のネーミングセンスはさておき。

携行型レールガンって―――とんでもないものができてしまったものだ。




―――轟音。あの後、簡単な説明を聞いてから華ちゃんはサバの試験運用を行っている。反動自体はほとんどないらしいが、銃本体が10㎏以上あるらしいそれを、片手で。

そんな姿をBGに、私と桔梗ちゃん、呉主任は話し合いをしていた。私は筆談だけど。

「あれの問題点としては―――、第一に電力供給。現状使えるサイズのバッテリーでは1マガジン、30発が限界です。マガジンそのものにバッテリーを組み込むことでどうにかしていますが―――」

「継戦能力に不安が残るわね。」

『マガジンと一緒にバッテリーも補充できるんだろう?補給体制さえしておけばどうにかできるのでは?』

私がメモ帳にそんな言葉を書き込むと二人は頭を抱えて深いため息をついた。

「そこで第二の問題です。量産が困難。少なくとも、18日。

―――3日後の襲来には到底間に合わない。試作品が完成したのだって奇跡みたいなものです。」

華ちゃんにとりついたアジ―ンからの情報だ。最初のうちは黙秘を貫いていた彼だが、華ちゃんからの一晩以上に渡る脳内尋問によって心が折れてしまい、ついに白状したらしい。特殊な機械で映し出された彼は泣いていた。引き合わせが悪かったとしか言いようがない。嫌いな人に対する華ちゃんがあそこまで苛烈なのはしょーじき知りたくなかった。

「おそらくアレへの有効打にはなりえると思うわ。少なくとも私が仕留めた小型の奴には確実にね。」

「大物を相手にしたのは華さんと彩夢さんだけですからね。そればかりは本人に聞かなければ―――」




「あれじゃ無理です」

数分後。試し打ちを終えた華ちゃんは開口一番にそう告げた。

「小型のものならともかく、大物相手には威力が全く足りないです。」

かなりショッキングな報告だと思うのだが、桔梗ちゃんと呉主任はやっぱり、といった顔をしていた。数秒ののち、桔梗ちゃんが口を開く。

「聞いたわね?さっさと次に取り掛かりなさい。」

その言葉と共に呉主任は立ち上がり、どこかに連絡をしつつ、あわただしくこの部屋を後にした。

「とりあえず―――華、その試作品は一応あなたが持ってて。」

「いいんですか?」

「どうせ量産も出来てないし、適当な奴に持たせるよりはマシよ。」

「―――わかりました。」

「そうそう。試作品はもう一つあるの。そっちも試してもらうわ。これは華だけでいいから、伯母様は先に帰っていてくださいな。」

『いいのか?』

「自分の仕事は終わらせてますから。華と一緒に帰りますよ。」

「いつまでも子供じゃないんですから―――」

弟子にまで苦言を呈されてしまった。邪魔者扱いされてる気がして少し悲しい。

「寝なくてもいいからって働き過ぎですよ。休んでてください!」

うげ。

「彩夢姉さんが話したいことがあるそうです。そのあとはしっかり休むように!いいですね?」

『アッハイ』

どうやらわが弟子はほんのり怒っている様子。有無を言わさずまくしたてられてしまった。仕方がないので帰ることにする。しかし、幽霊の休息ってそうすればいいんだろう?

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華鳥風月 イロマグロ @sakakoha01

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