華とばとるろわいやる

個人戦までの間に休憩時間が挟まれるようなので、とりあえずお昼ご飯を食べることにした。


したんだけど――――


「――――なんです?」

華ちゃんはいまだにご機嫌斜めだ。かなりイライラしているらしく、少し視線を送っただけで睨まれた。華ちゃん本人は自分のことを無表情、ともすれば無感情みたいに思っている節があるんだけれど、そんなことは全くない。むしろ表情も感情も豊かで顔に出やすい。

可愛いから別に良いけど。


『一位とっちゃったものは仕方ないんだから、胸張ってればいいのに。』

「―――べ、別に気にしてませんし?ごはん食べるんじゃなかったんですか?」

たぶん当人としてはクールに振る舞ってるつもりなのだろうが――

本当にわかりやすい。目に見えて落ち込んでいるのがわかってしまう。

――――まあ、指摘したら泣かれるか殴られるかその両方のどれかは確実なので触れないでおくが。とりあえず、桔梗ちゃんが作ってくれていた弁当を開ける。ずっしりとした重さからなんとなく予想はしていたが―――

「―――重箱弁当ですね。」

『あの子は何を考えているの……?』

わからない。桔梗ちゃんという人間がときどき本当にわからない。

目前にあるのは大きなお弁当。

その量、重箱にして5段。上3段がおかず、1段がおにぎり、最後の1段はなぜか白米がぎっしり。およそ女性2人分の量じゃない。

『桔梗ちゃん、私の分まで作ろうとしたのか……』

「ねーさんの悪いくせです。分量の調整がへたすぎます。」

『味は最高だし、これさえなければなぁ――』

桔梗ちゃんの料理の腕前は玄人裸足なのだが―――

料理の分量を調整しようとしてこういうことを良くしでかすらしい。

私と華ちゃんが越してきた時も夕飯にテーブルが埋まるくらいの料理出してきたし。――――弟が全部食べたが。

「どうせなら師匠が作ってくれればいいんですよ。」

『お弁当に私のサバイバル料理を?』

華ちゃんの提案に苦笑いを返す。

「いいじゃないですかおいしいし。いつかぜったい教えてもらいますからね。」

『えー。もっと凝った料理習ってきなよ……』

エビチリがあったので口に運ぶ。私の大好物だ。香りだけでも食欲をそそられる。こりゃ確実にうまい。確信し、口へと運ぶ。

心地よいピリ辛さとプルリとした食感。完璧だ。

―――――丸ごと殻付きでさえなければ。

『華ちゃん、このエビチリはやめとこう。』

とりあえず、華ちゃんには注意喚起しとく。

「わたし、エビだめですよ?姉さんも知ってますから師匠ようだと思いますけど。」

―――おおっと?

わざとである可能性が浮上してしまった……

私はあの子に嫌われているのだろうか。

「火がとおってなかったんです?」

『いや、気にしないで……』

嫌われる心当たりは多いのでまあ、仕方ないのかもしれない。


「それより、個人戦の話なんですけど。」

昼食を食べてだいぶ落ち着いたのか、華ちゃんが話し出す。

「中盤まではバトルロワイヤル的なものらしいんですけど、決勝は一対一らしいんですよ。ルールはどうなるのかなって。」

『―――え。射撃競技とかじゃなくて実際に闘うの?』

「らしいです。」

フライを噛み砕きながら考える。―――エビが嫌いになりそうだ。

『午前中みたいな装置じゃないの?』

「ざんねんながら。」

そう言って携帯端末を見せてくる。先ほどの月影冬子ちゃんからのメールで、内容は『肉弾戦での参加が許可されたよ』とのこと。

いつの間にメアド交換したんだこの子ら。

『仮想対決シミュレータだったっけ』

「かそう―――なんです?」

『仮想対決シミュレータ』

「頭痛が痛いみたいな名前ですね……」

ため息を吐かれた。仕方ないじゃんコレで商品名なんだから!

『一昔前までゲーセンとかにあったんだけど。知らない?』

「げーせん?」

そっからか。華ちゃんが世間知らずなだけであって、ゲーセンが絶滅したわけではない―――と思いたい。

ジェネ―レーションギャップを覚えつつ、説明しているところでアナウンスが響く。個人戦を始めるので集まれとのこと。

『お弁当はこっちで片しとくから行ってらっしゃいな。』

「あ、ありがとです、師匠。」

出発しようとする華ちゃん。その背中に声をかける。

『―――頑張ってね。』







『―――頑張ってね。』

正直に言えば出たくなかった。わざと負けるとか、棄権することまで頭の中にはあった。そんな心持だったのだが―――

「―――――――――優勝してきます。楽しみにしててくださいね。」

振り向いて、宣言する。

師匠の言葉を聞いたら、目立つとかそういうのはどうでもよくなって。

気が付いたらそう言っていたのだ。







あり?優勝?別に発破かける気はなかったんだけど……

――――年頃の弟子とのコミュニケーションって難しい。

重箱を重ねて風呂敷に包んで鞄に入れる。

――――3割も食べきれてないがどうすんだこれ……







個人戦会場に到着した華は、受付で案内された選手控室に入る。部屋の空気は正直最悪だ。そこら中から嫌な視線を感じる。予想はしていたが、完全にアウェーな空間だった。

とりあえず、隅の方のベンチに腰掛ける。と、午前中一緒だった月影冬子が話しかけてきた。

「おつかれー。ごめんねー、空気悪くて。」

爆弾発言をぶち込んできた。

ただでさえ悪い空気がもっと悪くなる。

「うちのクラスからワンツーフィニッシュだからみんな気が立ってるんだよ。うちのクラス、蘇生因数低い子ばっかしだから。」

「そんなことだろうと思ってました。確か、うちのクラスには――」

「あー、あと2人ミュータントの子もいるけど、2人とも欠席。ひどくない?」

そう言って携帯端末を見せてくる。

チャットアプリのトーク画面だが、冬子の出席を呼びかける発言は1も2もなく一言で断られていた。

「去年もそうやって断られてボク一人で優勝だったからさ。仲間ができたみたいでうれしいな。」

「――お手柔らかに、お願いします。」

「うん。よろしくね!」

どうやらこの少女、前回の優勝者らしい。周囲の空気とは対照的に明るく爽やかなのが恐ろしい。

と、ここでアナウンス。初戦が始まるらしい。

どうやら師匠の予想通り、例のシミュレータによって行われるようだ。









武器選択は自由。あばたー?とやらは一律同じものを使うらしい。身体能力がなんとか言ってたので仮想の体のことだろうか。

武器の種類が多く少し迷ったが、おあつらえ向きのものがあったのでそれを選ぶ。身体能力も関係なく、あまり目立たない武器だ。









『すごいなー、大型スクリーンでシミュレータの中を写すのかー』

私の目の前には大画面。映画館のスクリーン二枚分はありそうだ。

最初は10人ずつに分けてバトルロワイヤルを行い、勝ち残り二人でタイマンバトルって形式らしい。華ちゃんはAブロック、投子ちゃんはBブロックとのことだ。

Aブロックは奇数位の人で構成されていて、市街戦をイメージした戦場らしい。上位の人から順に20秒間隔でほかの参加者から数百メートル以上離れたとことに出現するとのこと。

――――たぶん来年からルールに改訂が入るだろう。間違いない。









男は午前中の団体戦で11位であった。中途半端な成績に見えるかもしれないが、数百人の参加者の中での記録である。男自身はなかなかの結果だと自負していた。彼は集団戦には自信があり、特に乱戦の中で生き残ることにかけては個人戦出場者の中では随一だと感じていた。機械化したモノやミュータントとの闘いでは後れを取ることは間違いないが、シミュレータ、しかも筋力は一律。少なくともより高い成績は残せる。そう考えながら戦場に立った。それと同時に11位の男の戦いは終わった。






団体戦9位の男は見た。自らの次に戦場に立った11位の男の顔から上が消し飛ぶのを。続いて13位が。15位が。出現した瞬間に頭部を撃ちぬかれ、散ってゆく。それぞれの出現位置は数百メートル離れており、出現間隔は20秒ほどしかない。それなのに、スコープ越しの男たちは矢継ぎ早に撃ちぬかれ敗退していく。現在男は戦場に設置された廃ビルからスコープを使って狙撃手を探している。19位の参加者まで撃ち抜かれた。残り5人。いや、狙撃手を抜けば4人か――――。




建物に隠れていた9位の男が撃ち抜かれた。壁から体を見せてなどいなかったにも関わらず。頭があるであろう場所を推測し、壁越しで撃ち抜いたらしい。化け物じみた腕前だ。7位の男はスコープ越しに一部始終を見ていた。

「だが、俺も同じ狙撃手だ。場所はわかった……もらったぜ!」

視線を動かし、見つけた狙撃手。スコープ越しに笑っていた気がした。







「これであと2人…」

ビルの屋上。次弾を装填しながら華は呟く。

猶予時間の間に狙撃ポイントを見つけ、出現した奴と場所を把握しておいた奴は仕留めた。残りは5位と3位。移動中に出現した二人の場所はわからない。

「たぶん向こうからきますけど…」





団体戦5位の男は狙撃手のすぐ近くまで来ていた。

最初の狙撃を確認してから全力で移動し、ここまで来たのだ。途中で思わぬ拾い物もした。あとは狙撃手を追い詰めるだけだ。

を、敗退した参加者を盾として使い、にじり寄る。

一発飛んできたが、盾を貫通しない。やはり死体撃ちはできなくなっている。男はこのシミュレータをやりこんでいたため、細かい仕様まで把握していた。近づくまでの間、狙撃手が逃げ出そうとしても、おそらくあと一人の参加者の餌食だろう。完璧な作戦だとほくそ笑んだ。二発目も死体で防げた。そう、思っていた。




死体を盾に近づいてきた男を始末する。

「盾に使うなら手りゅう弾つけたままにしちゃだめでしょう…」

爆発音と共に後ろにいた女性に銃を向ける。

「あなたもそう思いますよね?」




「あなたもそう思いますよね?」

接近は完全に気づかれていたらしい。こちらが拳銃を向けると同時にあちらも向けてくる。

「早撃ち勝負でもしようってわけ?」

場を緊張が支配する。銃を向けたはいいが距離が近い。この距離なら外すことはおそらくない。膠着状態だ。恐らく先に動いた方が―――負ける




アナウンスを聞きながらシミュレータの装置を離れる。最後の人は迷った挙句に華が設置しておいた鏡にあっさり騙されたらしい。暗くて鏡のある所をわざわざ選んだかいがあったというものだ。

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