宝玉と悪魔(クリスタルとアヴェンジャー)

有原ハリアー

プロローグ(仮完成状態)

 情報通りだ。

 情報通り、私は宝玉管理省まで辿り着く、そんな状態だった。

「警備は……見えるだけでも、十人はいるな……」

 SMGサブマシンガンを構えた警備員が、厳戒態勢で宝玉管理省を固めていた。

 だが、ここまで来て退くわけにはいかない。


 私の家族を殺した男が、今しがた姿を見せたからだ。


 私はあの男に――奴に――、私の家族を殺したナイフを突き立ててやろうと、息を潜めて伺う。

「頼むぞ……」

 私は愛銃を構え、宝玉をじっと見る。

『水のベールよ、我が身を覆い隠せ』

 透明化の詠唱を終え、私は警備を突破しようと疾駆しっくする。足音を限界まで殺し、少しずつ動きを止めながらも、奴との距離を確実に縮める。

 あと50メートルまで縮んだとき、私は次の詠唱を始めていた。

『真紅の業火よ、我を遮るもの全てを焼き払え』

 詠唱終了と同時に引き金を引く。撃ち出された弾丸が地面に着弾したとき――


 辺り一面が、業火に包まれた。


「ぐあああああっ!?」

「敵襲!? バカな、どこから……ああっ!」

「ひいっ、助けてくれ! 死にたくな――ぎゃああああっ!」

 哀れな警備員だ。この場にいなければ、死ぬことも無かっただろう。

 だが私は、家族を殺したあの男を殺すまで……一切の情けを捨てる、と心に決めたのだ。

 私は纏っていたベールを解除し、透明化を解除する。そして護衛を全て失った奴との距離を、15メートルまで縮めた。

「貴様が、私の……俺の家族を、殺したのか……」

 奴はすぐには答えない。ネクタイをいじる余裕すら見せている。

 私は痺れを切らしたふりをし、更に声を張り上げる。

「どうなんだ、ああ!?」

 奴の余裕は崩れない。

 だが、老いて尚端正な顔が、ゆっくりと動いた。

「いかにも。私が君の家族を殺した。まさか生き残りがいたとは思わなかったが」

 これで最早間違いない。


 こいつは、私がナイフを突き立てるべき――仇敵だ。


 私は愛銃を左手に持ち替え、右手でナイフを抜く。

 刃渡り20センチのこのナイフは、私の家族を惨殺した。

『風よ、我に恩恵を』

 移動速度上昇補正の詠唱を終え、私は銃とナイフをそれぞれ構える。

「今貴様に、俺の家族の無念を叩き込む!」

 そして私は、奴に向けて疾駆しっくした――。

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宝玉と悪魔(クリスタルとアヴェンジャー) 有原ハリアー @BlackKnight

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