第30話 真実は明らかにした方がいい。
放課後、僕は家に帰る途中で、ひとりで川を跨ぐ国道が通る橋の下近くに寄ってみた。
前までは今野宮の捜索で、警察の人間がちらほらいたが、今は人気があまりない。ランニングなのか、中年の男性が上下スウェットのスポーツウェア姿で走り去っていく。何事もなかったかのように、時が経っている。橋の上からはひっきりなしに過ぎていく車の音が耳元まで届いてきていた。
「本当に、今野宮さん、死んじゃったのかな……」
僕は口にするなり、おもむろにため息をこぼす。
「もう、いいです。そこにいますよね」
川を見つつ、僕が声を張り上げると、後ろから、誰かの足音が響いてきた。草むらを踏みしめるのが混じっているところから、生い茂っている斜面からっぽい。
僕が振り返ると、ひとりの人物がある程度の距離を置いたところで、立ち止まった。
ハンチング帽を被り、上はシャツにジャケット、下はズボンというやや動きやすい出で立ち。大人びた顔つきにすらりとした背丈は相変わらずだ。だが、艶がある長髪は後ろでまとめている。ボーイッシュな雰囲気を醸し出していた。
「いつから、バレていたのかしら?」
休み中のクラス委員長、神前は、僕と目を合わせてきた。
「僕が退院してから、初めて学校に行った日からです」
「早いわね」
「まあ、その、何となく、気配は感じていましたから……」
僕は頭を掻き、好きな人から褒められたことに対する恥ずかしさを感じていた。
「てっきり、また、家に乗り込んでくるかと身構えていましたけど」
「それはもういいわ。これ以上行くと、あなたの妹さんに間違った認識をされると思うから」
「付き合ってるって、間違われることですか?」
「そうね。それに、わたしはあなたをフったわ」
「ですね」
「傷ついているかしら?」
「それは、ないとは言い切れないですね」
僕は言うなり、自分の胸に手を当てた。フラれた相手とはいえ、心臓の鼓動が高鳴っている。本心としては、まだ諦めたくない感情がそうさせているのかもしれない。
「それで、どうして、ずっと僕のことをつけていたんですか?」
「そうね。あなたについていけば、何かわかると思ったからかしら?」
「今野宮さんのことをですか?」
「そうね」
言葉をこぼす神前に対して、僕は安堵の胸を撫で下ろしていた。神前がつけている気配を感じたのは、退院してからの登下校のみだ。今野宮のことを小泉と話すのは校内なので、神前は知らないはず。
「でも、結局わからなかったわ。事故か殺人か」
「僕や小泉さんが今野宮さんを殺したっていうんですか?」
「そういうことは言ってないわ。けど、クラスのみんなはどう思うかしら?」
「それはまあ、変な目で見られはしますけど……」
「それが普通の反応よ」
神前ははっきりと言い切る。
「だからこそ、真実を明らかにした方がいいわ」
「真実ですか……」
「内容次第では、わたしがあなたに何をするのかわからないけど」
鋭い眼差しを送ってくる神前。もし、間違って、今野宮を殺したとか言えば、自分の命が危ないのではないか。
「僕は、殺していません」
「じゃあ、今野宮さんは何で死んだのかしら?」
「自分で川に飛び込んだんです」
「何か揉めていたのかしら?」
「それは……」
「言いたくないのね」
神前の問いかけに、僕はどう答えようか悩む。今野宮が勝手に飛び込んだと伝えても、信じてくれそうにない、そもそも、本当は僕と小泉が今野宮を殺そうとしていたのだ。
「わたしね、今野宮さんが亡くなって、すごい悲しいのよ」
「それは、そうですよね……」
「そうね。もう、いっそのこと、後を追って、死にたいぐらいかしら」
「もしかして、ここには、今野宮さんと同じように……」
「それは違うわ」
神前はかぶりを振った。
「片垣くん」
「はい」
「わたしのことを殺してくれないかしら?」
「えっ?」
神前の言葉に、僕ははじめ、聞き間違えだろうと思った。
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