第27話 望んだものが簡単に手に入ると味気がない。

「やっぱり、そうだったのね」

 恐る恐る顔を上げれば、神前は呆れたような表情で両腕を組んでいた。

「バレバレね」

「ばれてたんですか?」

「当たり前よ。付き合っているというのに、どこかよそよそしい関係に見えたから。特に、片垣くんの方ね」

 神前は言うなり、正面を向き直し、僕のそばまで歩み寄ってきた。

「こう言うのも何だけど、片垣くん、彼女いたことないわよね?」

「それは、まあ、はい。仰る通りです……」

「別にそれが悪いとか、そういうことじゃないわ」

「じゃあ、何で、そんなことを聞いてきたんですか?」

「初めての彼女として、今野宮さんを選ばなかったのはなぜかしら?」

「なぜって……」

「わたしは胸が張り裂けそうなくらい、今野宮さんと付き合えないことを悲しんでいるのよ」

 神前は両腕を解き、片手を胸のあたりに当てた。よほど、今野宮の彼女でないことに対して、強い思いを抱いているらしい。彼氏役で今野宮のそばにいる僕としては、申し訳ない気持ちになってきた。

「あの、その、ごめんなさい……」

「謝られると、余計悲しくなるわね」

「ごめんなさい……」

「そう言う片垣くんは、誰か想い人はいるのかしら?」

「想い人っていうのは、好きな人、っていう意味ですよね?」

「そうね」

 神前の返事に、僕はどうしようかと戸惑い始めた。答えは決まっているものの、口に出す気持ちの準備ができていない。

 僕の想い人はもちろん、神前だ。だから、今野宮の告白を断った。

 なので、神前の質問に応じるということは、告白に等しい行いをするかもしれない。

「いるのね」

「それは、その、います」

「誰かしら?」

「やっぱり、その、聞きますよね?」

「別に、無理して答えなくてもいいわ」

 神前の言葉に、僕は甘えて、「なら、そうさせてください」と言いかけようとした。

 だが、それでは単に逃げているだけではないかと僕を悩ませる。

 もう、はっきりと伝えた方がいいかもしれない。失敗するとしても。

 ベッドの上に座る僕は、立っている神前へ真っすぐ見上げる形で視線を向けた。

「僕は、神前さんのことが好きです」

「神前さん、というのは、わたしのことかしら?」

「はい」

 僕はこくりとうなずいた。

 神前は間を置いてから、口を開いた。

「このタイミングでそういうことを言うのは、片垣くん。どうなるかわかった上での行動よね?」

「もちろん、そうです」

「今のこと、別に忘れてもいいのよ? それでも、わたしの返事が聞きたいのかしら?」

「聞きたいです」

 僕は逃げようとはしなかった。

 しっかりと、本人から答えを知りたい。

 神前はしばらくすると、ため息をついた。

「返事は、ノーね」

「ですよね」

「言っとくけど、わたしは、今野宮さんのことを諦めることなんて、ずっとないから。見つかってなくても、どこかで生きてると思ってるから」

「僕も同じ気持ちです」

 声をこぼす僕に対して、「そうなの」と言う神前。とはいえ、僕の場合、こういう形で死なれるのは望んでいないからだ。もちろん、僕や小泉は彼女を殺そうとしていた。とはいえ、あっさり死なれるのは味気がない。欲していた結果が簡単に手に入ってしまうと、どうにも満足ができないからだ。

 とまあ、変な思いが頭の中を駆け巡っている中、神前は場から立ち去っていった。

「お大事にね」

 という言葉を残して。

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