第25話 僕だけ助かっても意味がない。
気づけば、僕の視界には蛍光灯が点いた天井を映していた。
「片垣くん……」
聞き慣れた声に顔を動かせば、瞳を潤ませて座っている小泉の姿。
僕は今、ベッドの上に寝かされていた。
「小泉、さん」
「よかったです。ケガとかはなかったみたいですから」
「ここはどこ?」
「病院です」
「小泉さん、ケガ、してるけど……」
「これですか?」
小泉は言うなり、涙を拭った手で頬についた横線の傷を撫でた。血はもう、垂れていない。
「大したことないです」
「そうか……」
「そんなことより、今野宮くんは、大丈夫ですか?」
「一応、その、大丈夫……」
僕が起き上がろうとすると、小泉は慌てたように立ち上がり、近寄ってくる。
「ダメです。今日はとりあえず、じっとしていた方がいいです。ひとまずは二、三日安静とお医者さんは言っていました」
「そうなんだ、ごめん……」
僕はベッドにある枕に頭を埋め、天井を見る。
とりあえず、僕は助かったらしい。
でも、今野宮は。
「そうだ、今野宮さんは?」
「今野宮さんは……、まだ見つかってないです」
小泉は再び座ると、陰りが走った表情で答えた。
今野宮は助からないかもしれない。
僕は根拠もなく、ぼんやりと思ってしまった。
「僕は助けられなかった……」
「片垣くん……」
「川の中で、今野宮さんと話したのに……」
「今野宮さんを見つけたんですか?」
「いや、わからない。もしかしたら、僕の夢かもしれない。水中で会話していた自体、変な話だし……」
「大丈夫です。今野宮さんはきっと見つかります。きっとです」
「小泉さんは、頬を傷つけられたのに、今野宮さんを心配するんだね」
「当たり前です」
小泉は躊躇せずに言い切った。
「ここで死なれたら、困ります」
「それって、今野宮さんに色々と言いたいことがあるってこと?」
「当たり前です」
小泉の言葉に、僕は吹き出してしまった。
「何がおかしいのですか?」
「いや、その、小泉さんは元気だなって……」
「それでしたら、そうやって笑う余裕がある片垣くんも元気そうで何よりです」
小泉は表情を綻ばすと、おもむろに視線を窓の方へ向けた。外は川に飛び込んだ時と同じで真っ暗だ。
「暗いですね」
「暗い? あっ、そうか。今、夜なんだっけ……」
「そうです。片垣くんが川に飛び込んでから三時間くらい経っています」
小泉の言葉に、僕はそれくらいまで意識がなかったのかと否応なく感じた。
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