第23話 怪しい選択肢

 小泉は今野宮の方を睨みつけた。

「ろくでもない質問です」

「こんな状況でよくそんなことが言えるね」

「こんな状況だからです」

 小泉の答えに、今野宮は笑みを浮かべる。

「わたしのことが嫌いみたいだね」

「嫌いです」

「まあ、わたしも別に、小泉さんに好かれなくてもいいかな」

 今野宮は言うなり、僕と目を合わせてきた。

「それで、どっちを選ぶかな?」

「その質問、変な気がするんだけど……」

「どこが変なのかな?」

「小泉さんを死なせないことなんて、あるのかなって」

「そうですね。片垣くんの言う通りです」

 小泉が相づちを打つ。

 と、今野宮が甲高い笑い声を上げた。

「片垣くん、察するのが早いよね」

「いや、普通に考えたら、誰でもそう思いそうなことなんだけど……」

「小泉さんはちゃんと助けるよ。片垣くんがそういう風に選んだらね」

「でも、それは、今野宮さんにとって、好ましくない選択じゃ……」

「そうだね。わたしとしては選んでほしくない選択肢だね」

 今野宮は間を置かずにうなずく。

「だったら、何なんですか?」

「何なんですかって、そういうことだよ」

「意味がわかりません」

「つまりは、わたしが好ましくない選択肢でも、好きな片垣くんが選ぶなら、仕方なく諦めるってことだよ」

 今野宮の言葉に、僕は何か裏があるのではないかと勘繰りたくなった。

「それって、小泉さんを死なせない代わりに、何か代償とかあるんじゃ……」

「代償?」

 今野宮が首を傾げる。

「何を言っているのかな? わたしは小泉さんを死なせない選択肢なら、片垣くんを殺したりとかはしないよ」

「他には?」

「他?」

「例えば、神前さんを殺すとか」

「それはおもしろいね」

 今野宮は笑みを浮かべる。

「でも、そんなことはしないよ」

「じゃあ、他に誰かを殺すとか……」

「片垣くんは、わたしをどうしても、殺人犯にしたいのかな?」

「いや、そういうことじゃないけど……」

「なら、そこまで深く考える必要はないと思うよ」

 今野宮の言葉に、僕はどうしようかと頭を巡らす。

 小泉を死なせるかどうか。答えは簡単だ。でも、やはり、今野宮の質問には、何か嫌な予感がする。

「片垣くん」

 見れば、小泉が真剣そうな眼差しを送ってきた。

「何が起きようと、覚悟はできています。ですから、片垣くんも覚悟を決めて、選択してください」

「小泉さん……」

「何か嫌だなー。こういう、二人だけで運命を決めるっていう雰囲気がかな。まるで、わたしだけ除け者扱いされてるみたいだよ」

「今野宮さんは元々除け者扱いです」

 小泉の声に、今野宮の手がわずかに動く。

「今、喉元にナイフが当たったと思うよ。痛いかな?」

「これぐらい、平気です」

「平気なんだね。なら、もうちょっと」

「やめてよ!」

 瞬間、僕は声を張り上げていた。

「なら、早く、小泉さんを死なせるかどうか、選んでくれないかな?」

 今野宮が視線を移してくる。

 僕は覚悟を決めた。

「わかったよ」

 僕は間を置き、深呼吸をして、息を整える。

「僕は、小泉さんを死なせたくない」

 今野宮、小泉を含んだ三人以外いない橋の下で、僕はゆっくりと言い切った。

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