第22話 余計なことはしない方が無難だ。

「片垣くん」

「何?」

「わたしがこの世にいなくなっても、神前さんは振り向いてくれないと思うよ」

「そんなの、やってみなくちゃわからないから」

「それはどうかな」

「何が言いたいのですか?」

「神前さん、わたしが殺されたら、きっと犯人を死に物狂いで捜すはずだよ」

 今野宮の言葉に、僕は思わずうなずきそうになってしまう。いや、間違いはない。神前は今野宮のことを諦めていない。ウソとはいえ、僕と付き合っていることになっているのにだ。神前を諦めてない僕も同じようなことかもしれないけど。

「そう言って、この場をうやむやにしようとか考えてる?」

「そうできたら、いいけど、多分、無理かな」

 今野宮は言うなり、サバイバルナイフの刃先を左右とも、小泉の方へ向けて構える。

「下がってください」

小泉は言葉とともに、僕の前へ片腕を横に伸ばす。

「でも……」

「そうしないと、片垣くんは巻き添えになってしまいます」

「守られているんだね、片垣くんは。もしかして、小泉さんは片垣くんのこと、好きなのかな?」

「そういうのではないです。それに、あたしには彼氏がいます」

「それって、やっぱり、片垣くんじゃないのかな?」

「違います。沼田くんです」

「へえー。小泉さんが沼田くんと付き合ってるなんてね。そうは見えなかったよ」

「別に誰かに知ってほしいとか思ってないです」

「わたしとしては、片垣くんが浮気してないとわかっただけでもよかったかな」

「残念でしたね」

「何が残念なのかな?」

「今野宮さんに残念なお知らせができなかったことがです!」

 小泉は声を上げるとともに、今野宮目がけて、突っ込んでいった。包丁を振りかざし、相手の胸を切りつける勢いでだ。

 だが、今野宮は動きを見抜いていたのか、寸前で横に逸れて、かわした。

「!?」

 小泉はすかさず、背を向けないように、今野宮の方へ正面を移す。

 同時に、今野宮がサバイバルナイフを交互に真っすぐ突き刺そうとしてくる。

 小泉は後ずさりしつつ、今野宮の攻撃を何とか避ける。

「小泉さん!」

「ダメだよ」

 僕が駆け寄ると、今野宮が片方のサバイバルナイフを首筋寸前にまで迫ってきた。思わず立ち止まったものの、あと少し動けば、切られるところだった。

 一方、小泉も喉元近くにもう片方のサバイバルナイフを突きつけられていた。本人は微動だにせず、頬には先ほどの刃でかすったのか、横線が入っている。途中、何滴か足元に垂れており、僕は血だとわかった。

「二対一だったのに、残念だったね」

「わずかに油断しました」

「ダメだよ。片垣くんに気を取られたら」

「ごめん」

「謝る必要はないです」

 小泉は僕の失態を気にしないかのように言う。とはいえ、僕としては申し訳なく思っており、どうにかしようと焦りが生まれてくる。

「片垣くんは離れたところでじっとしていた方がよかったかもね」

「これから、どうするのですか?」

「どうしようかな。このまま、小泉さんだけ殺すのもいいけど、そうだね、ここは片垣くんに選ばせてあげるよ」

「選ぶ?」

「小泉さんを死なせるかどうか」

 今野宮は楽しげな声を漏らす。僕と小泉を手玉に取れたからだろうか。どうにかしたくても、首筋あたりにナイフが迫っているのでは、身動きすら取れない。

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