第18話 本当に好きなのかどうか謎だ。
午後の休み時間。
「それで」
「何ですか?」
校舎の外にある非常階段で、僕は小泉と顔を合わせていた。今の場にいるのは、本日二度目だ。
「どこまでが本当なのかなって……」
「どこまでが本当だと思いますか?」
小泉から問い返され、僕は両腕を組んで、考え込む。
「とりあえず、神前さんを殺すのはウソだよね?」
「ご想像にお任せします」
「いや、ちょっと待ってよ。神前さんを殺すっていうウソをついて、今野宮さんを呼び出すって……」
「冗談です」
「冗談って、本当に神前さんを殺すつもりかと思ったよ」
「片垣くんも騙すくらいしないと、今野宮さんは信じてくれないと思ったからです」
「それって、僕のことを信用してないってこと?」
「少しは信用しています」
「少しだけか……」
僕はため息をついた。
と、小泉が軽く僕の肩を叩く。
「大丈夫です。今野宮さんはちゃんと始末します」
「慰めの言葉にしては、本当に物騒な言葉だね」
「しょうがないです。本当に物騒なことをするんですから」
「まあ、そうだけど……」
僕は言いつつ、ふと、沼田のことを思い出す。
「沼田のことだけど」
「彼がどうしたんですか?」
「好きなの?」
「はい」
「その、沼田が神前さんを好きなことも?」
「それはウソです」
小泉ははっきりと言い切った。
「じゃあ、本当は?」
「沼田くんは、あたしの彼氏です」
「えっ?」
「といっても、つい最近付き合い始めたばかりです」
小泉は恥ずかしくなったのか、頬をうっすらと赤く染めた。
知らなかった。沼田はいつの間に、彼女ができていたんだ。僕としては、本を奪われた記憶で、嫌な奴という印象が強い。そんなクラスメイトに彼女がいるとなると、負の感情が強くなってしまう。
「どうしましたか?」
「いや、ちょっと、その、このままだと、沼田を殺しそうな勢いだったから、何とか冷静になろうと思って」
「そうですか。気持ちはわかります。前に本を奪われましたよね」
「だいたい、小泉さんは沼田のどこがいいの?」
「沼田くんのいいところですか?」
小泉は小首を傾げた。なぜ、そんな質問をするのかといった反応だ。
「好きになるのに、理由はいらないです」
「すごい最もらしい答えだけど、答えになってない。というより、何となく悔しい」
「悔しいのでしたら、片垣くんも今野宮さんと付き合うという方法があります」
「それは断るよ」
「よほど、委員長さんのことが諦められないのですね」
「当たり前だよ。神前さんは僕のタイプなんだから」
「タイプですか……」
小泉は口にするなり、口元あたりに手を当てて、何やら難しげな表情をする。神前を好きになることが理解できないのだろうか。
「そう言われますと、沼田くんはあたしのタイプじゃないです」
「タイプじゃない?」
「はい。というより、沼田くんから告白してきたので、あたしは試しに彼氏を作ってみようと思いまして、返事を承諾しました」
「ちょっと待って」
僕は手を突き出して、小泉の話を止めた。
「さっき、『好きになるのに、理由はいらないです』って言ってたよね?」
「言いました」
「それじゃあ、まるで、好きじゃなくて、あっちから言ってきたから、仕方なく付き合い始めたように見えるよ」
「仕方なくは失礼です。これでも、少しは沼田くんのことが好きです」
「僕を少しは信用してるのと同じくらい?」
「そうですね。そんな感じです」
「それ、本当に好きなの?」
「好きに変わりはありません。もういいですか」
小泉は僕の追及に苛立ってきたのか、語気に棘が出てくるようになった。
「わかったよ」
僕はとりあえず、小泉の機嫌を悪くしないように、質問を打ち切ることにした。
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