第15話 物騒な悩みごと

 翌日の休み時間。

「どうすればいいんだろう……」

 僕は校舎の外にある非常階段で両腕を組み、手すりに寄りかかっていた。

「昨日より元気がなさそうですね」

 顔をやれば、いつからいたのか、小泉が横から視線を向けてきていた。身長が低いせいか、見上げるような形になっている。

「元気も何も、今野宮さんが色々とヤバいよ」

「色々とはどういうことですか?」

「僕のことを監視していた」

「それはヤバいですね」

 うなずく小泉。

「ということは、今野宮さんを殺したくなったのですか」

「また物騒なことを言うね」

「それが片垣くんのためで、人助けになるなら、やります」

「暇つぶしなんだよね?」

「結果的にはそうです」

 淡々と口にする小泉。

 僕は頭を抱えた。

「どうしたのですか?」

「どうしようかと悩んでて……」

「それは、あたしに、今野宮さんを殺してもらおうかどうかということですか?」

「まあ、その、うん……」

 僕は答えるなり、自分で何を口走っているのだろうと思いたくなった。

 クラスメイトに人殺しを頼もうと考えているなんて、おかしい。

 でも、昨日の、家を覗き込んできていた今野宮は何をしでかすかわからない。

 下手すれば、僕を殺そうとしてくるのかもしれない。

「僕は、死にたくない」

「顔が青ざめてます」

 小泉の声に対して、僕は応じる気力がないほど、不安で押し潰れさそうになっていた。

「大丈夫ですか?」

「多分、大丈夫じゃないと思う」

「そうですか」

 小泉は口にするなり、なぜか、僕の片手を両手でぎゅっと握ってくれた。

「これでどうですか?」

「これでって、もしかして、心配してくれてる?」

「心配して悪いですか」

 答える小泉は不機嫌そうな表情を浮かべる。

 で、僕はどうすればいいか戸惑った末、「ありがとう……」と言うしかなかった。

「どういたしましてです」

 小泉は両手を離してくれた。

「落ち着きましたか?」

「少しは」

「なら、安心です」

「今のも、人助け?」

「そうと思ってくれてもいいです」

 小泉はこくりとうなずく。

「それでどうするのですか?」

「とりあえず、今野宮さんを何とかしたい」

「手伝うなら、あたしは何でもします」

「本当に何でも?」

 僕が問いかけると、「何でもというのは、あたしのできる範囲でです」と小泉は付け加えた。

「そうだよね」

「当たり前です」

 小泉は言うなり、非常階段を降り始める。

「どこに行くの?」

「準備です。善は急げというものです」

 小泉は言葉をこぼすと、背を向けて、下の階へ消えていった。

 ひとり取り残された僕は、ため息をつく。

「まだ、こっちから何も頼んでないんだけど……」

 つぶやくも、返事はどこからもなかった。

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