第4話 結果がどうであれ、自分の気持ちを伝えることは大切だと思う。

「とりあえず、よろしくね」

「よろしくねって、まさかだけど、神前さんのことじゃないよね?」

「そうだよ」

「本当に一緒に行かないとダメ?」

「いなくてもいいけど、その時は色々と片垣くんの悪口を喋るかも」

「それはやめてください」

 僕は自然と頭を下げていた。回数はもう、数えていない。

「なら、その場に片垣くんは一緒に来てもらうしかないよね」

「わかりました」

「よろしくね」

 今野宮は笑みを浮かべると、ホットコーヒーを空になるまで飲み干した。

「今日はごめんね、片垣くん。わざわざ時間を作ってもらって」

「いや、別にそれは大丈夫だけど、それよりも、神前さんのことが……」

「まあまあ。それは仕方ないこととして」

「バッサリだね」

「わたしはあんまりクヨクヨと考えたりする性格じゃないから」

「それは何となく、わかるような、わからないような……」

 僕は口にしつつ、アイスコーヒーを飲む。

 今野宮はメンタルが強いなと、改めて思う。

「今野宮さん」

「どうしたの、片垣くん?」

「その、何て言えばいいのかわからないけど、頑張って」

「フラれた相手から応援されるのって、何か辛いよね」

「ごめん」

「また謝る」

 今野宮の声は不満げだった。

「片垣くんは別に悪いことなんてしてないよ。むしろ、気を使って、告白を保留したり、好きでもないのに、とりあえず付き合ってみるの方がわたしはひどいと思うよ」

「まあ、それは、何となく、僕もそう思う」

「わたしは何となくじゃなくて、確実にそう思うよ」

 強い語気で言う今野宮は、僕の方へ真剣そうな眼差しを向けてきた。

「だから、神前さんにも、はっきりと告白を断ろうと思う。うん、今決めた」

「そういえば、保留中だったよね」

「うん。だから、今のわたしは神前さんに対してひどいことをしてると思ってるよ。それに気付かしてくれたのは、片垣くんなんだよ」

「僕?」

 自分のことを指差した僕に対して、今野宮は躊躇せずにうなずく。

「だから、わたしの好きな片垣くんにも一緒にいてほしいんだよね」

「神前さんへの返事をする場に?」

「うん」

 今野宮は口にするなり、学校の鞄を肩に提げ、立ち上がる。

「ここの支払いはわたしがしておくよ」

「えっ、いいって。ここは僕がしておくよ。何だか申し訳ないし……」

「それなら、お言葉に甘えていいかな」

 今野宮は僕と目を合わせてくる。

「そういえば、片垣くんは、神前さんに告白しないの?」

「告白も何も、神前さんは今野宮さんが好きだってわかったから、その、もう、意味がないとわかったし……」

「それもそうだけど、わたしみたいに、気持ちをちゃんと伝えるだけでもいいと思うよ。結果がダメだってわかっていたとしても」

 今野宮の言葉は本人が経験済みなだけあって、軽く受け止めるものではない気がした。なので、「そう、だね」と曖昧に答えることが精一杯。

 今野宮がいなくなった後、僕は残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干す。

「何だかフッた僕の方が励まされた気がするな……」

 空になったコップの底を見つつ、何度も感じる今野宮のメンタル面に対する強さ。僕はどうすればいいのだろう。神前に告白するよりも先に、今野宮との接し方をちゃんとしないといけない気がした。

 ふと、スマホが震えたので、画面に目をやれば、今野宮からだった。

“Thank you”というセリフとともに、親指を立てるうさぎの絵。

 僕は首を傾げた。

 自分としては、ありがとうと思われるようなことをしたのだろうか。ただ正直に、今野宮からの告白を断っただけだ。

 ひとまず僕は、「どういたしまして」と素っ気ない日本語でメッセージを返していた。

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