第6話 ひきこちゃん

 みなさんこんばんわ! わたしひきこって言います。


 と、言っても……わたしがひきこになったのはここ一か月ほど前のことでして、まだこの名前で呼ばれることには慣れていません。

 今までも名を変え、身分を偽称して生活することは珍しくなかったのですが……。

 これから先、向こう数百年はこの名前で生きていくかもしれないと思うと感慨深いものがあります。


 と、なぜそんなことになったのかと言いますと、わたしが死後の進路に悩んでいたことが原因の一つになります。


 そうなんです!

 わたしも、まさか死後に進路で迷うことになるとは思いませんでした!


 実を言いますとわたし、すごく恥ずかしいんですが天国へ行くか地獄へ行くかを決める筆記試験に落ちてしまいまして……。


 何故そうなったかというと、答案用紙に名前を書き損ねてしまって、失格になったんです。


 いやぁ、ちゃんと名前は書いたんですけどね?

 わたし、答案用紙に死んだ時の偽名を書いてしまって……。

 どうやら、死後の筆記試験は産まれて最初につけられた名前でないといけなかったみたいなんです……とほほ。


 で、試験に失格となったわたしは、天国へもいけず地獄へもいけず途方に暮れていました。


 すると、死後のお役人さんでしょうか?

 ある人がわたしにいっそ現世で霊になってはどうかと勧めてくださったんです。


 一度現世に降りてから成仏すれば、また試験を受けられるからというお話でした。


 なので、わたしも現世で霊としてがんばってみようと思ったのですが……。

 霊にも種類があるらしくてですね、その進路で迷っていたんです。


 そう! 浮遊霊と地縛霊です。


 一応、お役人さんにこの両者の違いを簡単に説明されたのですが……。


 浮遊霊は完全歩合制の給金が安定しない自由度の高い霊。

 地縛霊は安定した固定給がある代わりに行動に制限がかかる霊、とのことでした。


 年数を重ねて行けばどちらもより上級の霊にキャリアアップできると説明されたのですが……わたし自身、どちらを選べばいいかよくわからず、結局迷ってしまい。


 気が付けば三途の川の前のベンチで頭を抱えていました。


 ですがそんな時、ある死体に声をかけられたのです。

 それが今——


「あの、死体さん?」

「う゛ァ゛……?」


 ――目の前にいる死体さんです。


「えっと……すみません。呼んでみただけでしたっ」

「あ゛はぅぐぶぅ゛……」

「……えへへ」


 見た目は人の形をしただけの加工ミンチ肉の塊ですが、とっても優しい人なんです。

 この人? がわたしに「あぶぅ……る゛るぁ゛、ひぐぅ゛?都市伝説として働かないか?」と、声をかけていなければ、今もわたしは三途の川の前でふわふわしていたかもしれません。


 とにかく、この死体さんには恩義を感じているという話です!

 この先、わたしはどんな困難にも負けません!


 都市伝説のひきこちゃんとしての役割を立派に勤め上げ、いつかきっちり成仏してみせます!


 と、わたしが決意を新たにした時――


「あれ?」

「う゛?」


 ――死体さんの携帯に着信がアリました。


「ぶごばぼ」


 ちょっと待ってって――と、言う死体さん。


 死体さんが電話に出ると。


『ちょっとおっ! どういうことよおっ!!!』


 ものすごく怒った感じの女の人の声が聞こえます!

 それはもう鬼気迫る、おそろしい声でした。


 しかし、死体さんは取り乱すことも無く……。


「うる゛ぶほぉ? うー……あ゛ぁ゛」


 と、冷静に対応します。


 そして、数分後。

 死体さんは通話を切ってわたしに振り向きました。


 死体さんはどことなく神妙な面持ち? で、わたしに告げます。


「も゛るふ゛ぉ゛……がみゅ゛ぶるぼぁ゛……」

「えっ? えええぇっ!?」


 どうやら、さっきの電話の主……すごく怒っていた女の人。

 わたしの前任者であるひきこさんに会いに行くことが決まったようです……。


「そ、それ……どうしても行かなくちゃだめなんですか?」

「もるう゛ぁ」


 どうやら、決定事項のようです。

 ううぅ……あんなに怒っていたこわい女の人。

 それも、わたしの前任者さん……。


 わたし、本当にこのさきも都市伝説としてやっていけるのでしょうか……。

 すごく、先行きが不安です。

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都市伝説のひきこさん(なう) 奈名瀬朋也 @nanase-tomoya

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