暑かった夏
ネコ エレクトゥス
第1話
佐藤春夫による谷崎純一郎婦人強奪事件
文学史上では二人の日本を代表する小説家が一人の女性を巡って対立した出来事と記されているが、実際としては二人はどうでもよかったのだ。婦人その人が事件だったのだから。
『したごころ』
Kは先日犬の置物を買った。電化製品会社ヴィクターのマスコットでおなじみのあの犬である。こういうのは女性が好きそうだから彼女にあげよう、とKは思ったのであった。
家に持ち帰ってよく見るとその犬はオスであるらしく下半身にあるものがついていた(そんなところまで忠実に作らなくてもいいのに!)。しかしそれを見ていてKは自分が彼女に何をあげたかったのか悟ったのだった。KはHis master's voiceに従うべきか迷う。
結局近所の子供にあげることにした。
Love is blindness.
彼女が言った。
「あなたってスタイルがいいから。」
良かった、彼女は僕を愛している。
しかしもしかしたら僕は弄ばれているだけか。
それなら盲目なのは僕の方か。
女心
彼女に「楽しみにしている」と連絡を入れた。そして彼女を部屋に迎えに行った時「ちょっと待ってて。準備してくるから」と嬉しそうだった。それから二人で音楽を聴き会話を楽しんで別れたのだが、別れるとき彼女はどこか不満そうだった。
後で一人になった時に彼女の不満の原因を考えてみた。こちらは何もしなかったはずだが。そうか、それだ。それが原因だったのだ。何もしなかったことこそが。こちらが「楽しみにしている」と伝えたからこそ彼女は「準備して」きたのだ。気付くのが遅すぎる。大馬鹿者め!
翌日彼女にそのことを尋ねてみた。すると「別に、ただ準備してなかっただけ。不満?もっと一緒にいたかったから」と答えが返ってきた。女心を汲み取るのは難しい。
すれ違い
この時期ゴミの分別にやたらと気を遣うようになった。これは燃えるのか?だが収集車は持って行ってくれなかった。
秋
この年は6月頃から急激に暑くなりはじめ、7月の終わりになると寒い日が続いたのだった。そしてとにかくよく雨の降る夏であった。「この花瓶の花の蕾も咲いてきたから君にもきっと良いことがあるよ」と彼女に言ったその花もやがて萎んだ。
そして季節は秋。例年より暖かい日もあったのだが遂に木枯しが吹くようになった。
暑かった夏 ネコ エレクトゥス @katsumikun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
訳あり物件/ネコ エレクトゥス
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます