第4話
突き進んで断られ、というのを繰り返しているうちに、ほとほとりんの気持ちもだんだん冷めてきて、というか、自分自身が情けなくなってきて、とにかく考えない様にすることにした。
かなりしんどかった、辛かった。毎日が楽しくなかった。
でもそのうち、恋愛とは別の、関心を持っていなかったことに、目が行くようになり、少しずつ、それなりに楽しめるようになってきた。
子供たちの勉強にも、もっと関わりを持つ様になった。
内容まで、予定まで、細かく口を挟む様になった。
夏休みだったから、その方が良かった、結果的に。
でも夏休みが終わると、またスランプに陥った。とにかく、これまでのやり方では時間が足りなかった。
これまでもそうだったように。
終われない宿題、上がらない成績。
どうやったら子供達が計画通りに宿題を終わらせることができるか、どうやったら理解力を伸ばすことができるか。それぞれに悩みは違う、解決法も異なる。
でもそれをりん一人の力で解決するのは限界がある。
どうでもいいや、って思いたかった。
そう思えたら随分と楽になれるのに、そうはなれない。
孤独だった、それでもいいと思っていたけど、トンネルから抜け出せない。
もう受験戦争に参加させないでおこうか、と考え始めていた。
諦めそうになっていた時に、手を差し伸べてくれたのは、やはり大林だった。
他の先生では納得できない。でも彼と話すと、ストンと落ちる。
同じことを要求されているのかもしれない、結局のところ。
塾をやめないということを。
でも、彼の言葉はりんの心にしみわたる。そしてりんを満たしてしまう。
きっとよく考えて言葉を発しているのだろう。
相手の心を。求めていることを。
分析し、解決策を提案する。本来の塾講師の姿なんだろう。
りんが求めている、もっともな答えを。
でもそれは子供たちの勉強に関することに過ぎなかった。
でもりんはそれだけを望んでいるわけではなかった、済むはずもなかった。
りんは彼を必要としていた。
人として、男性としてリスペクトし、好意を抱き続けていたのだ。
ずっと、我慢していたのに…。考えないようにしようとしていたのに…。
好意?そんな程度か?やはりこれは恋なのか。
寝ても覚めても頭の中を占領する。
どうしたらいいのか?と聞いても、きっと答えなんて出るわけもないだろう。
でもりんはきっと、このことを誰かに打ち明けたくなってしまう。本人にも。
そしてまた、適当な答えしか返ってこなくて、満足できなくて、むなしくなって、また忘れようとするんだろう。
悪循環…。悪循環か…。
恋のサイクル、ってこんなもんなのか。
りんは受験戦争で勝利を収めているから、常に勝負を挑もうとするんじゃないか、って。彼の、りんの分析。勝利ってほどのものではないが。
どうやらりんは受験戦争の勝者であるらしい。
彼はよく分析をする。りんだけでなく、子供たちに対しても。
それは当たっているのか、外れているのかは分からないが、分析をされている時はとても刺激的で、りんはドキドキする。何だか服を脱がされているような、心の中を覗かれているような、体の中を覗かれているような。
またこうして一つずつ、彼の癖を見つけていく。
まだまだ抜け出せない、ピンク色の世界。
恋って、いいものだ、やっぱり。
辛いけど、悲しいけど、虚しいけど。でも、得られる幸福感は測りしれない。
いつか渡せるかもしれない眼鏡拭きを、りんはお守りとして持っておくことに決めた。それはきっと渡せることのない、彼へのプレゼントとして。
眼鏡拭き @takesy8at
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