vs 十戯城グラディエーターズ インターバル
前半、後半の合間のインターバル。
時間は十分。
他のスポーツと比べると比較的短い休憩時間だが、選手撃破の度に試合が五分止まるコンキスタならばこれくらいで充分。
これ以上の休息はせっかく温まった選手達の体を冷やし、後半戦のよりハードな試合をこなせなくなってしまうからだ。
現在、六四:六一。
一度は逆転したものの、再逆転を許してしまった十戯城ベンチ。
現在の十戯城でも指折りの実力者である彼女がイラだっているために、チームに流れる緊張感は凄まじく、内部崩壊が始まろうとしていた。
「クソが!」
マネージャーの後輩らが用意してくれたドリンクサーバーを蹴飛ばし、中央から凹ませる。
対能力者専用の素材で作られたそれは、常人が蹴るとつま先を骨折するくらいの威力がある。
能力者でも蹴ればそれ相応に足が痛くなる代物なのだが、エンジンフル稼働中の卓須は痛みなどまるで感じていないようだった。
「あんのクソ野郎共がぁぁっ……! 後半タダじゃあおかねぇぞぉぉぉ……!!!」
「落ち着きなはれや、卓須」
「あ”?! ――っ……」
「落ち着け言うてんねん、卓須」
今まで優男の仮面を被っていたのだとわかるくらいに、
怒鳴らず、ただ静かにしろという言葉を自らも体現しているだけの彼は、それだけで卓須を黙らせてしまった。
その恐ろしさは一瞬でチーム全体に浸透し、内部崩壊を阻止してしまった。
「まぁええ。後半はもっとガンガン行くさかい、おまえらも気張れや。一年坊主に、これ以上大きい顔させないためにもなぁ」
明らかに様子が豹変した戦場ヶ原。
観客席に座る強者達は、その豹変に気付き後半の激戦を予感した。
黎明の一年、
食べるペースが異様に速いのか、袋の中身がそんなにないのか、それは想像に任せるところである。
しかしその様子を見た彼女の友達は、厭きれて溜め息を漏らしていた。
「あれが黎明に一泡吹かせた雨野馳六華……確かに能力はコンキスタ向きね。というか、それしか能がないって感じねあの子。可哀想……きっと最初に能力がわかったときは、さぞ失望したことでしょうね」
「キツいねぇ、自分もそういう感じの能力じゃなかった?」
「まぁね。でも生憎と、私はそれだけじゃなかったし、今じゃ千鶴が誘ってくれたコンキスタもある。私は助かった。でもあの子は、あの子はエース。高校から始められるコンキスタに、今までの経験なんて一年生の内にありはしない。だからあの子には、エースの重責っていうのが最初からある。それはどんなスポーツにもない、大きなリスクなのよ。あなたと同じようにね」
「私まだエースじゃないし……ってか、エースとかダルい。メンタルやられそう」
「そう言うと思った。でも直にそう呼ばれることになる。あなたは、私が知る限り最強だもの」
「ハァ……メンタルやられるなぁ……」
干支コンキスタ部、
ずっと目を閉じている巳永は、足元を白杖で突きながら何かを描く。
同級生かつクラスメイト、さらには幼馴染の仲でもある日辻であるが、彼女が何を描いているのか、目で追ってもわからなかった。
部長は、彼女独自の図形を描いて戦況を理解しようとしているのだと言っていたが、本人曰くそうではないらしい。
しかしそれ以上何も語らないので、結局はわからないままである。
「巳永さん……そろそろ帰りません? なんかもう退屈っていうか暇っていうか、結局うちの脅威にはならねぇって」
「日辻くんは凄いですね、もうこの勝負の勝敗がわかったのですか? ではこの勝負、どちらが勝つので?」
「そ、それはわからねぇけど……お互い戦術もなしの殴り合い。明星のあの子は卓須を倒したし、倒す術もあるのなら明星は有利に違いない。目新しい能力も出て来ねぇし、そろそろ帰らねぇか。おまえの体にも障るだろう」
「そんなに病弱じゃありませんよ、私。まぁ比較的弱いのは認めますがね……ですが、まだ帰るのも早いかと。あの俊足少女……私から見ても、驚異的な伸びしろの持ち主のようですから」
「伸びしろが?」
「高校生以上からしか始められないコンキスタは、言ってしまうとどれだけ成長できるかの勝負。才能と能力の世界です。能力がいくら優れていても、才能がなければ一年と経たずに体の方から拒絶される。ですが彼女は、どうもコンキスタの才能に溢れているようですね」
「へぇ……巳永さんがそう言うの、今年はこれで七人目だな」
「そうでしたかね……そこまで甘い評価を、しているつもりもないのですが」
「黎明の神門千鶴。
「そうですね……七人というのも縁起がいいので、ちょっと名付けてみますか。例えば、そうですね……――」
「――
(巳永……そういうの名前付けるの好きだよなぁ……)
「何か文句でも? 日辻くん」
「あ、あぁいや……なんでも」
「それよりも、気付いておりますか?」
「あぁ……なんであの人が……」
コンキスタのフィールドが見える学校の外。
校舎及び校庭を囲う柵の向こう側に、一台のリムジンが止まっている。
その前で立ち尽くして試合を見る、変装によって正体を隠す女性が一人。
そしてリムジンの中にも、彼女と同じ試合を見る黒髪和装の女性がいた。
外で試合を見るのは、世界最速のコンキスタドーレス、
彼女に対して黒髪の女性は実に親し気に、そして上から物を言って来た。
それに対する覇星の態度は、至って普通だ。
「どうじゃ? 雨の子は。おまえの教えた高速の星を会得できたかえ?」
「うん、基本はバッチシ。でもあの子、まだ自分でできたって自覚ないみたい。会得っていうのとは、まだ違うかな」
「それは滑稽じゃなぁ。自分でできたことにすら気付かないとは、なんとも若い。儂自ら育ててやりたくなるほどじゃ。若いとはいいのぉ」
「いやいや、トラちゃんのは育てるっていうかイジメる、でしょう? ダメだよ若い芽摘んじゃ。娘さんに嫌われちゃうよ?」
「あれの話をするでない彩夢。あれは最近儂にちっとも構ってくれぬ薄情者よ……」
(あぁ、反抗期だぁって言ってたっけ……)
「それよりあの娘、雨野馳六華と言ったか」
「うん? そうだけど……なんか気になるの?」
「雨野馳……まさかと思うが、雨野馳
「誰、それ」
「あぁ……あまり他校の生徒が知る由もなかろうが、儂が入学入部した当時は有名な話じゃった。学校の七不思議とすらされていてな」
「何々? 興味深々なんですが、教えて頂けませんか、お姉様」
「おまえはこういうときだけお姉様と呼んで……明星の七不思議、雨野馳巴。全国制覇を成し遂げた明星コンキスタ部。その創設に携わった立役者とされたものの、部室に一度も姿を現わさなかった、影の存在じゃ」
そんな、ずっと昔の噂など知らない明星ベンチ。
「雨野馳!」
「晴渡くん……」
晴渡が手を伸ばす。
なんだろうと少し考えた雨野馳だったが、すぐさま手を出してタッチした。
「やったじゃんか! 俺達の必殺技完成だぜ!」
「え、えぇ……ありがとう。私一人じゃ、できなかったわ」
「おぉよ!」
調子に乗りかけた晴渡の腕を、背後から
晴渡の全身に痛覚から来る電気信号が走り、その場に唸りながら片膝をついた。
「もうボロボロね。無理は禁物よ、晴渡くん」
「おまっ! 雪咲!」
「限界超えの大玉連発に多数連射、腕の負担はものすごいでしょ? ここで無理したら、今後に響くわ。強力だけど、この試合もう二度と使えないわね」
「な、俺はまだやれる――っぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっっっ!!!」
再び不意に、ボルトが腕を持ち上げる。
触られたことに対して絶句するしかなく、さらに容赦なく腕を動かされて、悶絶するしかなかった。
「ショーゴ、無理は禁物だぜ? 俺達にもやらせてくれよ! 二人だけの試合じゃねぇんだぜ!」
「でもボルト……あの連携は俺じゃなきゃ……」
「あら、失礼しちゃうわね。あなただけが、雨野馳ちゃんと連携できるわけじゃないのよ」
一年生全員が、雨野馳六華と晴渡省吾を思っている。
全員ここまでほとんど目立てていないのと、何より二人ばかりが目立っているのを悔しく思っていた。
「後半から、私達も本気出していくわ。私も、能力見せてあげる」
「それさっきも言ってなかったか、かま野郎。結局能力もまともに見せねぇで、先輩達の後ろに隠れてただけじゃねぇか。またやるやる詐欺じゃねぇだろうなぁ」
夜兎鳴と嵐前が睨み合う。
馬が合うのか合わないのか、初めて絡んだのではないかという二人は、かなりエキサイトしていた。
そんな二人の間に、曇天が巨体で入る。
「まぁまぁ、とにかく僕らも頑張ろうよ。雨野馳さんと晴渡くんにばかり無理はさせられないしさ」
「そだな! やろうぜマツノブ! 俺達の能力全開で!」
ボルトと曇天で宥める中、雪咲が雨野馳に歩み寄る。
他の全員にわからないよう、声を潜めた。
「基本はあれで大丈夫。あとは、雨野馳さんが感覚で掴むだけ。さっきの感覚を思い出して。大丈夫、雨野馳さんならやれる」
「えぇ」
一年生がいがみ合い、言い合いながらも団結しつつある。
今はまだバラバラだが、目指すは勝利一筋。
徐々に団結しつつある後輩達に、二年三年は頼もしさを感じ始めていた。
「
「……一度、彼らの補助をやめてもいいかと」
「はい! もうバレないようにするのも難しいです!」
「
フィールドにいる間、ずっと一年生の補佐役に陰で徹していた二年生コンビ。
その鎖を解くことを、
そして同時、ずっと黙りこくっている
背後に気配なく忍び寄り、力強く両肩を握り締めた。
「き、霧ヶ峰さん……」
「しっかりするのんね、部長。みんな誰も負けるなんて思ってないし、負けることに不安も感じてないのんね。何を隠してるか知らないけどさ、見なよん」
「試合にあんな楽しそうにさ、張り切って挑んでいくの。あれがいつもの……私の好きな部長の姿ねん……去年のクリスマス、覚えてる? 部長あのとき忘れてくれって言ってたけど、私、覚えてるかんね」
「え、いや、あれは――」
「ってか告白しといて取り消すとか、正直普通なら引かれるよんね。部長は度胸がないのんね」
「ご、ごめんなさい……」
「……だから、待っててあげる」
わざわざ地面の壁まで立てて、二人は三年生から一年生の視界を封じた。
一年生から突っ込みが無論あったが、作戦会議だと話を合わせた。
ただ一人、夜兎鳴は当然と言うべきかなんとなくだが、察したらしいが。
「今度取り消したら、許さないんだからね?」
「き、霧ヶ峰……さん……」
「さぁ、まずは勝つからねん。行くよ部長ぉ」
「……あぁ、あぁ!」
結局何があったのか、二人の過去も知らない一年生陣はわからない。
しかし次の瞬間現れた鏡根に、一縷の頼もしさを感じられて仕方なく、そのとき見せた晴れ晴れとした微笑みに、不安を感じることはもうなかった。
「よし! みんな行くぞ!」
「「「おぉぉぉ!!!!」」」
さぁここからが、正真正銘現在の明星の実力である。
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