vs 十戯城グラディエーターズ
「それではこれより、明星スターダストと十戯城グラディエーターズの試合を始める。一同! 礼!」
「「「よろしくお願いします!!!」」」
審判を務めるのは、十戯城の三年生。
今回は怪我のため審判役に徹底するというが、実際はとてつもない実力者らしい。
彼が怪我をしていたのは、実際幸運だった。
しかしこちらは結局十一人でやることとなった。
しかも交代なしの超ハンデ戦だ、勝ち目はかなり薄くなる。
しかし不利な状況となって燃え上がる選手もいた。
「絶対勝つぞぉ!」
「オー!」
「必ず、勝つぞぉ!」
「オー!」
「よし部長! 景気づけに円陣行きましょう!!!」
「あ、あぁ」
いつもなら、やろうなどと言われることもなく自ら言い出す
彼の中で渦巻く不安が試合が近付くと共に膨らみ、彼を挙動不審にさせていく。
その不安がチームに伝染し、不協和音を生みつつあった。
そんな空気を一変したのは晴渡でもボルトでもなく、意外にも
チームの注目を集めるため、比較的大きく手を叩く。
「全員、集中なさい。今日の試合、私達の威厳とこれからが懸かってるわ。舐められたままあっけなく終わるか、しぶとく喰らいついてそれでも尚惜敗に終わるのか。それとも、彼らを負かして私達の実力を認めさせるのか。すべてはこの試合に懸かってるわ。全員、気を引き締めなさい!」
「「あいさ
(いつの間にできたの、そんな掛け声……ってか姐さんって……)
調子のいい晴渡とボルト。
そこに
というよりも、雪咲はその空気を作るために自ら輪に入った傾向があった。
チームの空気が悪いのは、重々察しているようだ。
「さぁ部長、力強くお願いします」
「……わかった。行くぞ、みんな!」
夜兎鳴からも促され、鏡根は半ば無理矢理元気を出して声を張る。
しかし一瞬だけでも、その一変によって空気が変えられた。
「勝利を目指す奇跡の流星ぃぃぃっ!!!」
「「「明星スターダスト!!! ゴー!!!」」」
「じゃ、こっちも行こか。作戦は、いつも通りや」
「「「うっす!」」」
「……ボッコボコ!!!」
「「「フルボッコ!!!」」」
明星スターダスト vs 十戯城グラディエーターズ
試合開始。
開始早々、明星は
晴渡の能力でエネルギー弾を作って注意を引き、その隙に雨野馳が周囲のモンスターを抜いて加速する。
グングンと加速しながら十戯城の選手目掛けて突進し、ことごとく回し蹴りを叩き込んだ。
頭を打った選手が二人、その場で気絶する。
「明星、
「んなにっ?!」
「な馬鹿な!」
開始四秒で、雨野馳による選手撃破によるポイントが課せられる。
お互いにモンスターであるワーウルフを倒し、得点は一三:四で明星リードで始まった。
選手撃破のため、五分間のインターバルが与えられる。
十戯城のベンチでは倒された二人が復活し、悔し気に唸っていた。
その様子に、
「っ、リーダー! あいつ速い!」
「落ち着けぇ卓須。確かに速いが、こちとら試合は始まったばかりや。おまえのエンジンもまだかかってなかったさかい、まぁ気負わずいこうや」
(とはいえ確かに速い……あの銀髪といい、
「
「はい」
呼ばれて出たのは、筋肉質のがたいのいい男。
しかし大男というわけではなく、一七〇センチジャストくらいの高校生平均身長クラスだ。
鋼鉄を肘に仕込んだカバーを右腕にしており、その目は肉食獣のように脅迫的である。
「あの銀髪の子、抑えられるか?」
「……やってみます」
明星チームは、
しかし実際、作戦は決まっていた。
晴渡の爆散を囮に雨野馳を走らせ、
そのために作戦会議をしているフリをして雨野馳を休ませ、相手に作戦を悟らせない狙いだ。
前回の練習試合で、唯一強豪の黎明を圧倒した作戦。
今のところこれが、チームが勝てる一番の方法。
しかしこれは雨野馳の体力を序盤から大きく削る。
前回の試合でも合計で一分も走っていなかったのに息が上がっていた雨野馳には、キツい作戦だろう。
「雨野馳ちゃん、まだ走れるん?」
「……はい……ただし、六秒が限界、です……」
頼もしく思われるのは嬉しい反面、のしかかってくるプレッシャーが怖い雨野馳。
しかしそれよりも怖いのは、自分の未熟さでチームが負けること。
雨野馳頼りの戦術しか取れない現在の明星で、自分が誰かに敗北するのはあってはならないことであるが故に。
そしてその原因が、何より自分の未熟さであることが怖い。
まだ本気で走れるのが、六秒だけの自分が怖い。
しかしやらなければならない。
雨野馳六華は今、明星スターダストのエースなのだから。
「でも、行きます……!」
「……うん、お願い。頑張って欲しいのんね」
インターバル終了。
試合再開と共に、再び晴渡がエネルギー弾を作り上げる。
太陽のように燃え上がる巨大なそれが炸裂するのと同じタイミングで、雨野馳は駆け出した。
ワーウルフの群れの間を駆け抜けて、雨野馳は十戯城選手へと突進していく。
一人また一人と蹴りを叩き込みながら滑走していく中、雨野馳の前に倉科
「行かせん」
倉科は地面に手を添える。
すると地面が盛り上がり、やがてそれは巨大な城壁となって聳え立った。
倉科丈介。
能力:
「喰らえ」
城壁の間から砲台が飛び出し、走る雨野馳に砲撃を浴びせる。
砲声によって鼓膜が破けてしまいそうになるなかで、雨野馳は耳を塞ぎながらも走り続ける。
そして砲撃の雨の中倉科の隙を見つけ、覚悟のうえで蹴りかかった。
だがそれは、上級生ならば見破れるわざと作られた隙。
故に飛び込んできたそれに対処する速度は速いという話ではなく、前もって用意されていた動きであったがために、雨野馳の速度など関係なかった。
倉科は自身の前に盾を作り、雨野馳の蹴りを殺す。
同時に止まってしまった雨野馳は速度も殺され、倉科の目の前で息を切らして止まってしまった。
走ったばかりの雨野馳は、立つことすらままならない。
それはもはや、危機以外の何物でもなかった。
「まずは一回、倒れとけ」
倉科の全力の拳が、雨野馳を殴り飛ばし一撃ノックアウト――すると誰もが思っていた。
しかしその予想を裏切って、雨野馳を助けたのは他でもない霧ヶ峰だった。
武器である刀で二人の間に入り込み、避けた倉科に向かって斬り払う。
だが倉科は地面を操作して再び盾を作り、さらには刀を折っていた。
今度は霧ヶ峰に危機が訪れる。
しかし霧ヶ峰は落ち着いている。
まるで慌てない。
土と石とをまとった拳を振り上げて殴る倉科の懐に飛び込み、胸倉を掴み上げる。
そして何が出てくるのかと思えば、霧ヶ峰はどこからともなく銃を取り出して、倉科の眉間に炸裂させた。
小規模ながらゼロ距離の爆破で、倉科は吹き飛ばされ再起不能。
十戯城は二度目の
雨野馳ばかり警戒していた十戯城は、霧ヶ峰の鮮やかな戦闘に歯を食いしばる。
倉科を倒した銃を消した霧ヶ峰は、またどこからともなく取り出した剣を
「舐めたら、いけないのんねん」
戦場ヶ原は理解する。
最初と同じく雨野馳を出したのも、雨野馳に倉科へと突っ込ませたのも、すべては囮。
雨野馳対策で出て来た倉科を、自らの手で確実に倒すための作戦だった。
それも、雨野馳を含むチーム全員まで騙した奇策。
唯一鏡根だけはわかっていたようだが、確かに敵が気付くのは容易ではない。
「あかんわぁ……舐め取ったらあかんわなぁ、そら。あっちには霧ヶ峰佳子がおるんやもんなぁ……しかも今日は日差しも弱くて……ホンマ、あかんわ」
霧ヶ峰佳子。
能力:
「こらぁ、うちらも能力バンバン解禁やで、ホンマ」
「最初からその気で来るのんねよ。久し振りに、私もハジけるとするからね」
戦場ヶ原ら十戯城選手を挑発する霧ヶ峰。
自らの能力も解放し、勝つ気満々な彼女の後ろで、雨野馳は試合開始早々に止められたことに驚き、同時に酷く自分を責め立てていた。
「やっぱり……私は、何も……」
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