vs 十戯城グラディエーターズ 開始前
試合当日、十戯城のコンキスタ部員が騒音を鳴らして現れる。
けたたましく鳴り響かせるバイク音に、試合を聞きつけて応援に来た明星の生徒達は、かなり怯えていた。
「来やがったなぁ! 十戯城! あれがあいつらの大将か!」
過去の栄光をわずかながらに未だ感じさせる風貌は、正直恐ろしさよりも荘厳な強さを感じる。
中でもそれらを率いる戦場ヶ原は、他の部員の中でも群を抜いて強く見えた。
前回喧嘩になりそうなのを止めに来た、あのときとは違う。
臨戦態勢というわけだ。
「十戯城の戦場ヶ原龍一や、御宅が明星のキャプテンか? 今日はよろしゅう頼むで」
「
控室へと案内する鏡根に続いて、屈強な十戯城選手達が歩いていく。
その中には無論、この戦いのきっかけとなった
「大丈夫? 雨野馳ちゃん」
「……えぇ、ありがとう
未だ、彼女達を前にすると怖い。
だが怖いだけじゃない。
戦ってみたいと、実力を試したいと思えている。
まだ大丈夫だ。
まだ、戦おうと思えている。
大丈夫だ、そう自分に言い聞かせる。
「よしみんな! 今日は勝つぞ! 絶対勝つぞ! 必ず勝つぞ、オー!!!」
「うるさい、
今日も家の事情の合間を縫って来てくれた
そしてバイトのシフトを調整して、
月神は日暮がいない日もたまに来てくれるし、日暮も家の手伝いの合間を縫ってチョコチョコ顔を出しに来てくれるので何度かチームプレイは確認した。
これで黎明との練習試合のように、先輩方が遠慮して実力を発揮できないということはないだろう。
ただ問題は嵐前だ。
バイト関連のいざこざがあったために部活にはまったく参加できておらず、チームプレイという部分で大きな不安がある。
一応能力は初日に教えてもらったが、それがどれほどのものなのかは知らないところだった。
「嵐前さん、早速だけど作戦があるの、聞いて頂戴」
「おぉいいぜ。サクッと勝っちまおうじゃねぇか」
まぁ実際、嵐前が自分勝手な性格ではないので困ることはなさそうだが。
だがそれよりも
普段通り。
至って普段通りに皆に接し、振る舞っている鏡根だったが、しかし霧ヶ峰からしてみれば明らかな違和感を感じられる。
長年共に部を守って来た友達として、何か隠していることを見抜いていたが、しかし鏡根の性格もよく知っている。
彼は自分の心配事をチームに伝染させるタイプの人間ではない。
故にいつも通りに振る舞い、いつも通りに勝とうとするだろう。
霧ヶ峰も、今日はそれがいいと思っていた。
現在のメンバーになって初めての試合。
嵐前という不安材料もあるこの状況下で、新たな問題を投じるのは最適ではないだろう。
無駄な緊張が力みを生み、パフォーマンスの質を下げることだってある。
「ぶちょぉ。みんな全力で戦わせて、いいのんね?」
「あ、あぁ! もちろん! 勝ちに行こう!」
明らか無理して平静を装っている鏡根は、一人控室に籠っていく。
元々緊張しいの彼は試合前に口数が極端に減るが、しかし今のように肩に荷を背負っているかのような苦しそうな様子だった。
明らか何かあると悟った霧ヶ峰だが、しかしやはりツッコむようなことはしない。
今ツッコんだところで最悪、チームプレイを悪くするだけだった。
「ところで霧ヶ峰先輩、今日助っ人の方々は……」
「んあ、あぁ……もうそろそろ来ると……」
霧ヶ峰のケータイが震える。
電話を受けた霧ヶ峰は始め単調に答えていたが、しかし最後切るときに物凄く深い溜め息をついた。
側にいた雪咲と雨野馳は、事態の急変を察する。
「せ、先輩? ……あの、どうかされたんですか?」
「んあ……助っ人が急に来れなくなった。急用だとか言って……」
「え、じゃあ――?!」
最悪の出だしだ。
明星のコンキスタ部員は全員で十一人。
つまり一人足りない状況であり、助っ人は必須。
その助っ人が来ないのならば、こちらは一人欠けた状態で戦わなければならない。
それも交代もなしだ。
誰かが戦闘不能になれば、その穴は開いたままである。
明らかに不利なこの状況下。
前年の戦績からみて、十戯城相手にこのハンデは痛すぎる。
鏡根の隠している不安要素もある今、これ以上の不安要素は取りたくないのだが、しかしそうはいかないようだ。
一年生に与えられる不安と心配は膨れ、さらに鏡根に至ってはさらなるプレッシャーを受けるだろうことは必至、まだ試合もしていないというのに、明星は最悪のスタートを切ることとなってしまった。
ならば鏡根の不安要素を取り除くのが先決だろうか。
しかしその正体がわからない今、無暗につついて出てきたのがネズミではなく毒蛇だったなんてこともあり得る。
あらゆる可能性を考慮し、そしてあらゆる状況を想定した霧ヶ峰は、後頭部を掻きながら考えて結論を出した。
「雨野馳ちゃん、
二人を呼び、耳打ちする。
二人は何度か頷いたが、しかし驚くべき戦術だったのか一度、え? と聞き返す場面もあった。
「奇襲作戦なのねん。どう、いける?」
「俺はなんとか……だけど、雨野馳に負担が……」
「……大丈夫よ、晴渡くん。最初くらいやれるわ」
「そんな、いきなり飛ばして大丈夫なのか……?」
晴渡
同じ不安が心の底に燻る雨野馳は、あえて強気な態度と口調で跳ね除けた。
「こういうときのために練習して、体力付けて来たのよ、あまり舐めないで」
「……わかった。じゃあ頼んだぜ、エース」
「え、エース?」
「そりゃそうだろ! 黎明相手にあんな掻き回したんだ。おまえ以外のエースはいねぇよ」
エース。
その言葉が、酷く肩に圧し掛かる。
エースのプレッシャーをその身に負ったその体が、なんだか重く感じる雨野馳であった。
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