vs 黎明カンピオーネ インターバル
前半戦が終了した。
得点は明星が七九。黎明が二一六と大幅に大差をつけられた。
黎明の戦略は実力者の三年と二年を中心に、明星の陣地も取りに来るスタイルである。
明星は今のところ陣地は死守しているが、正直消耗が激しい。とくにまだ初心者である
対する明星の戦略はあくまでゴブリン退治のみ。陣地を攻めたのは序盤の二年生の一回のみで、あとはずっと放置である。
陣地を護る選手は試合中には移動できないため、黎明の選手は実に退屈していた。
ゴブリンの討伐数も、黎明が圧倒的に上。さらに黎明は度々選手を攻撃し、まだゴブリン退治で精一杯になっている新入生を狙って撃破を繰り返していた。
一ポイントしか取れないチームと、度々五点を取れるチーム。どちらが優勢かなど、火を見るよりも明らかだろう。
さらに最悪の展開で、序盤で陣地を攻めた二年生の男子が未だ意識が戻らず、戦線離脱を余儀なくされていた。
過激極まるコンキスタの試合ではよくあることだが、
戦線離脱の場合、通常なら
その場合はその分人数を欠けた状態で続けるしかないのだが、今のこの状況でさらに人数を欠けた状態で続けるなど、もはや途中放棄した方がまだマシと思えるほど悲惨だった。
そんな明星の様子を見て、黎明の三年生は鼻で笑う。
「それ見たことか。明星なんて無名チームが、俺達に勝てるわけねぇんだ」
「まったくですね……これといった人材もいないようですし……しかし強いて言えば、やはり彼女ですか。
ベンチで眠たそうにあくびしながら、武器をいじっている霧ヶ峰に黎明の注目が集まる。
それに気付いた霧ヶ峰は、武器の隠し玉を見せまいと背を向けた。
そういうわけではないのだが。
「高校コンキスタ界最強、干支高校。そこの勧誘を蹴った女……異例中の異例の
「どちらにせよ、本気を出さないのなら結局明星に人材はいないですね。警戒することもないでしょう」
三年が話し合っているのを、キャプテンの
観客席を視線で一蹴した赤羽は、フンと吐息してからドリンクに手をつけた。その表情は、どこか楽しそうだ。
「何だか嬉しそうですね、先輩」
栗色のショートヘアーで眼鏡をかけた少女が、赤羽に親し気に問いかける。
赤羽同様この試合には出ていない二年生の彼女は、バインダーを手に記録係に回っていた。今回の試合での各選手の動きを、事細かに記載している。
名を、
「明星の新入生は、コンキスタの過酷さに気付いたみたいだ。だが同時にその奥深さ、面白さをも伝えられた。これで明星には、真に勝利を目指す人間だけが募るだろうさ」
「
「さぁね。ただそういう形になっただけかもしれない。彼は基本、楽しくやろうっていう人間だからさ。勝利に固執するタイプじゃないしね。おそらく入れ知恵をしたのは……」
「霧ヶ峰さん、ですか……」
「
「え?」
前半と後半の間のインターバルは、十分間。
その十分で、両チームは作戦を考え企てなければならない。
陣地を護る人間を変えられるのは試合の間にあるインターバルしかないために、このインターバルはかなり基調とも言える。
選手撃破後のインターバルはあまりにも短いため、その場の判断が煽られる。そのため陣地を護る選手の変更によって、作戦が大きく変わってしまうこともあり得るのだ。
その作戦が上手く働けば最高。最悪は、それが原因で敗北を招くことである。
「どうします……先輩」
すでに敗北は必至。ここから一ポイントしか取れないゴブリン退治を続けて、一三七点差を埋めるなど不可能である。
故にここでの作戦は、如何にしてこれ以上の失点を防ぐか、だが。
正直術がない。
ここまで新入生に戦わせるために、
霧ヶ峰が用意してくれた助っ人も、運動能力は高いが戦闘は素人。武器を振るったこともないために、明らか疲れている。ここからさらに一五分戦えるとは、到底思えない。
晴渡を含めた新入生組も、戦力面では同じ不安がある上に、助っ人以上にない体力が新たな戦術に挑むのを拒ませる。
特に晴渡は、手加減されていたとはいえ陣地を護るために上級生の相手をしていたのだ。体力面での不安は特に大きい。
どうする。
「ぶちょぉ」
霧ヶ峰が呼びかける。その目で、次の作戦を提案してきた。
(私があれを使うのんね)
(練習試合だぞ? 奥の手なんて出せねぇって……それにおまえ、体が……)
(じゃあどうするのんね。ここには私以外の戦力がいない。私が能力を解放すれば……)
(それ以外ねぇのかよ……)
(……せめてもう一人、この戦場を掻きまわす俊足のランナーがいれば話は別なんだけどねん……ないものねだりしても仕方ないのねん)
「クソッ……」
なんの策もない。
このまま戦うよりは降参した方がまだ、新入生のダメージも少なくて済むだろうかと鏡根が迷いだしたとき、晴渡が自らの手にエネルギーを収束し始めた。
その大きさを確認して、強く頷く。
「先輩、まだ行けます。行きましょうよ! こうなったら、最後まで足掻いてやるんです! あいつら以上にゴブリン倒して、ボスも貰っちゃいましょうよ!」
一つ目の巨人は、まだ眠っている。ボスを倒せば十点もらえる。確かに、追いつくにはそれしかないが――
――攻め手が一枚欠けた状態じゃあどうしようもない。
「晴渡くん、それは……」
「諦めるのですか、先輩」
不意に、横から声がした。
そこには、白銀の長髪を後ろで結んだ少女が一人。
「確か、敵の選手を倒せば得点なんですよね。なら、こちらも倒せばいいだけの話じゃないですか」
「そ、そんな簡単に言うけど雨野馳さん……相手は黎明の選手だ。口で言うよりずっと難しい。今の俺達の戦力じゃ――」
「私にやらせてみてはもらえませんか」
「多分ですが……追い抜けます」
雨野馳の言葉を聞いて、全員がなんのことだと顔を見合わせる。疑問に満ち溢れたその表情で皆が雨野馳を見つめる中で、霧ヶ峰ができたと呟いた。
そして雨野馳に、武器を手渡す。それは白銀の装甲をまとったロングブーツで、特に踵と指先には鋼鉄が覆っていた。
「雨野馳ちゃんに似合うと思って、初めて会った日から作ってたのん。きっと使いこなせるはずなのんね」
雨野馳の髪色と同じ、白銀のブーツ。それを受け取った雨野馳はすぐさま履き替え、青い双眸でフィールドを見渡した。
そんな雨野馳を反対側から見た神門は、ドリンクを
「どうかしたかい、神門。君にしては準備が早いじゃないか」
「べつになんでもないよ……だけどさ部長、なんか向こうにやる気ある奴が来たからさ……なぁんか気になるっていうかなんていうか……とりあえず、四人かな」
「四人?」
「四人、潰されるね、こっち」
それを聞いた赤羽は、一人で納得したようだった。
敵チームの黎明ではなく、フィールドを真っすぐ見つめる少女に対し、ほぼ同じ感想を抱いていたからだ。
違うのは、こちらの被害が四人と言う想定くらいだが。
「ハァア……こんなに突き放してまだ諦めないとか……メンタルやられそう」
「でも、面白いだろ?」
「……まさか。悪あがきとか、マジでメンタルやられるからイヤだよ、ホントに」
神門はおもむろに立ち上がる。その後も何かグチグチ呟きながら、自陣へと向かって行った。
「雨野馳」
何か言いたそうに、晴渡が呼び止める。
雨野馳は少し言葉を選んだが、しかし思いつく言葉は一つしかなかった。
「ごめんなさい。正直私も、なんで今出て来たのかわからないの。先輩にはあぁ言ったけど、でも実際は嘘。ホントは自分にできることなんてわからない。この状況で、私に何かできるのかなんてわからないの。でも、なんでしょうね……一瞬。ホントに一瞬だけだけど思ったの」
「抜けるって」
静かに、晴渡は唸る。
そしておもむろに、ガントレットをまとった右手を差し伸べた。
「なら抜いてやろうぜ、雨野馳。おまえの力、見せてくれ」
「……少し考えがあるの。ちょっと協力してくれないかしら」
インターバルが、終了した。
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