第86話 双子戦闘



「……あの~」

「何?」

「どうしたの?」

「いや、うん、どうしたと言うかどうしてこうなったと言うか……」

「「??」」

「とりあえず、二人とももう少し離れてくれないか?」


 シロは左右から腕を組んで歩くララとルルに向かって苦言を告げる。シロたちがララとルルを保護してからしばらく経った。どうにも懐かれたらしく腕を嬉々として自分らのほうへ寄らせる二人にシロは苦い顔をしていた。

 別に懐かれるのは構わないのだが、先ほどから冷たい視線が背中から突き刺さるのをシロは感じていた。


「……離れると迷子になる」

「……またはぐれたら今度こそ危ない」

「いや、まぁ、そうかもだけどよ」


 シロの苦言に何のこともないかのように返す二人。助けを求めるかのようにシロは後ろにいるユキとフィーリアに視線を向けた。だが、シロのその視線を無視するかのように二人は顔を突き合わせ何やら話し合いを行い始めてしまった。


「シロ君って、意外にも小さい子が好みなのかな?」

「普段より優しさに満ちてましたし……」


 何やら不穏当な会話がなされているようだがララとルルがくっついていてツッコみが出来ない。自分は決してロリコンではない、ロリコンでは。大事なことなので二回言いました。あと、別にいつもと大して変わらない態度だった気がするが二人にはそうは見えなかったようだ。


「……はぁ」


 非常に懐かれた二人と何でか機嫌が悪い二人にため息しか出てこないシロであった。



☆☆☆☆☆☆



「ララとルルからのチャットによるとこの辺らしいけどさ」

「緑ばっかりでどこに湖があるってのよ」

「まぁまぁ、あの二人が嘘つくはずないし」

「歩いてたらきっと見つかるよ~」


 場面変わって【向日葵の輪イエローホープ】の四人は、木々生い茂る道を歩いていた。

 行方不明だったらララとルルからチャットを貰ったのがつい数分前のことである。その内容は、親切なお兄さんとお姉さんたちに拾われ、一緒にどこかにある湖を目指すということであった。

 そこで四人も同様に湖を目指しそこで合流することになり、マップを頼りに湖を目指すこととなった。

 だが、かれこれ歩きまわっているのだが一向に湖が現れる気配が感じられず、エルはへとへとになりかけていた。まだ元気なミルフィーはまるでピクニックに来ているかのように余裕そうに見える。


「まぁ、まだ二人が無事だと分かってよかったわ」

「その辺のプレイヤーよりも強いからその辺は心配してなかったけどね」


 前方を悠々と歩くミルフィーの背中を眺めながらエルとルカは口にする。確かにララとルルは生産職というわりには強さが半端ない。PvPだって二人がその気になればCは余裕で取れる気がした。


「それにしても、緊急事態としてもあの二人が他のプレイヤーと組むのって珍しいわね」

「そうだね。あの二人、揃って人見知りだから」

「人見知りってより、コミュ障な気がするけどね」


 エルたちは思案顔でララとルルたちが組むと決めたパーティがどういう人たちなのか想像する。あの二人は双子ということで好みや性格がよく似ていた。よく言えばクール、悪く言えば不愛想。それが二人の性格を言い表す言葉である。

 普段から二人にで行動しているためか人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しており、おいそれと第三者が足を踏み入れることが出来ないのだ。ギルドに入った頃も、メンバーとあまり馴染めていなかったが時間をかけてゆっくりと仲良くなったのをエルはぼんやりと思い出した。

 そんな二人が出会って間もないパーティと一緒に行動するという事実にエルは驚きを隠せなかった。だが、二人が大丈夫というのなら悪い人たちではないのだろう。


「お~い、皆~早く早く~」


 エルがララとルルが一緒にいる人物たちがどういう人たちなのか想像していると随分と前にいるミルフィーが三人を呼ぶ声が響いた。エルたちは顔を見合わせて笑い合うとぴょんぴょん跳ねるミルフィーの元へ歩きだしたのであった。



☆☆☆☆☆☆



「KGYYYUUU!」

「大人しく卵を落せぇ!!」

「シロ君、鶏肉が落ちるかも!」

「それよりも、道具が欲しいですね」

「「……」」


 シロが突き刺さる視線とくっつく柔らかな肌に翻弄されることしばらく経った頃、歩いていたシロの【索敵】にモンスターの存在が確認された。それをまだ機嫌が悪いユキとフィーリアに伝えると二人は一斉に目つきを変え、武器を取り出した。


 最初は、ララとルルも戦うと進言してきたがシロはそれを丁重に断った。レベルが三人よりも高い二人が出てきたらオーバーキルになる恐れがあるからだ。あとは個人的に小さい女の子に戦わせるのはなんとなく抵抗があった。

 最終的に首を縦に振った二人。そして、戦闘態勢を取ったシロたちの前に鶏のような顔をした鳥型のモンスターが現れた。

 鳥型モンスターの姿を確認したシロは、意気揚々と政宗を抜き出した。野菜や肉などは結構手に入れたのだが、卵はまだ手に入れていない。もし、これでドロップすることがあるなら調理の幅が現れる。これを見逃す手がない。


「KGYYYUUU!」

「っと」


 鳥型モンスターの前へ飛び出したシロに向かって鋭いくちばしが襲い掛かる。シロはそれを余裕を持って回避。その間にフィーリアが矢を相手に向けていた。


「【影縫い】!」


 もはや必勝パターンとなっているフィーリアのスキル。それが見事に相手に命中、相手は動きを止めた。そこをシロが、政宗を構えて突撃すると勢いよく飛び相手に頭上へ移動。


「【フリーズランス】、【ファイヤーボール】!」


 シロが飛び上がったのと同時にユキが魔法で相手のHPを出来るだけ減らす。

 そして、飛び上がったシロは刀を相手の脳天へ向け、重力に従ってそのまま下へ落下。刃は、モンスターの頭に突き刺さる。


「KGYYYYUUU!!!」


 落下速度が加わった刀を受け、相手はHPを全損。激しい断末魔を上げながらその体を光へと変え、姿を消した。


「ふぅ……」

「イェーイ」

「イ、イェーイ」

「ノリを強制させるな」


 相手が消えたのを確かめるとシロは刀を鞘に戻し、ユキとフィーリアは両手を上げてハイタッチをしていた。若干、フィーリアがノリについて行けてない感があるが。

 戦闘を終わらせたシロはアイテムボックスを確認する。見ると、アイテムボックスに卵らしきものが収納されていた。満足げにシロはメニューを閉じ、ユキとフィーリアのほうへゆっくりと近づいていった。が、次の瞬間シロの【索敵】にモンスターの反応が現れた。

 反応があったのはララとルルの頭上だ。


「ララ、ルル、上だ!」


 咄嗟に大声で二人に知らせるシロ。そのまま二人の元へダッシュする。二人とも感知系のスキルを持っていないという話だったので反応が幾ばくか遅れる。その遅れが命取りとなるのはBGOをやっている誰もが承知の話である。


 二人の頭上から現れたのは先ほどと同じ鳥型のモンスター。リポップしたのか、それとも隠れて機会を窺っていたのか、どちらにしても奇襲をかけるタイミングとしては正解だ。シロは歯を食いしばる思いに駆られるものの、脚を止めない。しかし、シロの速度よりも早く鳥型モンスターはその鋭い嘴を二人に向け落下していた。


(間に合わない)


 シロが二人の被弾を覚悟したその時――



 二人が姿を消した。



「……は?」


 あまりの出来事にシロは素っ頓狂な声を出す。

 それは、落下してきた鳥型モンスターも同じようでいきなり姿を消した二人のプレイヤーに目を丸くしていた。だが、その直後、鳥型モンスターは横から顔面を殴られるような衝撃を感じ、気が付いたら森を形成している木々に激突していた。

 一体何が起きたのか理解出来ずに鳥型モンスターは目をぱちくりとさせるが、視界に何やら黒い影が横切った。


「せい……」

「KGYU!?」


 気の抜けた声とは裏腹に、強烈な衝撃が鳥型モンスターを襲い今度は遥か上空へと打ち上げられる。もはや何が何やら訳が分からない鳥型モンスターはただただ抵抗なく空へと飛ぶのみである。すると、木々を伝って先ほども見た黒い影が鳥型モンスターの左右に現れた。


 鳥型モンスターは、両目で左右から出てきた影の正体を確かめる。視界にはオレンジと水色の綺麗な髪をなびかせるそっくりな人間がいた。二人の手にはその幼い容姿とは不釣り合いな巨大ハンマーとモーニングスターを抱えていた。二人の武器を見た瞬間、鳥型モンスターは嫌な汗をたっぷりと垂らさせる。


 いつの間にか鳥型モンスターの左右に現れたララとルルは自身の手に持つ武器を構え、互いに目配せをする。その無言の意志疎通から先に武器を振るったのはモンスターの左側にいたララであった。オレンジ色の髪をなびかせ、思いっきり相手の左頬へモーニングスターを殴りつける。


「KGYU!!?」


 ダンプカーから激突されたような衝撃が鳥型モンスターに走ると、そのまま遥か彼方まで飛ぶ勢いで体がふっ飛ばされた。だが、そこで終わりではなかった。

 ララに殴り飛ばさた鳥型モンスターの行く先で、巨大ハンマーをまるで野球のバッターのごとく構えているルルが待ち受けていた。鳥型モンスターがど真ん中ストレートにルルの元へたどり着くと、満を持してルルは巨大ハンマーを振る。


「えい……」

「KGYU!!?」


 可愛らしい声とは裏腹に容赦のない一撃が鳥型モンスターを襲う。そして、また殴り飛ばされた鳥型モンスターを待つのは、地獄のエンドレスであった。


「よっ」

「KGYU!!」

「ほっ」

「KGYU!!」

「せいっ」

「KGYYUU!!」

「とりゃっ」

「KGYYYUUU!!」


 あまりのワンサイドゲームでシロは上空を見上げつつ、鳥型モンスターに同情してしまう。あれでは、キャッチボールをされる球のようである。

 だが、いくら泣こうが騒ごうがララとルルは攻撃を止める気配を見せず、鳥型モンスターも殺るならさっさとやってくれと言いたげであった。すると、そんな願いが通じたのか数回の往復をしたララとルルは仕上げに入ることにした。


「やっ」


 ララがおもぬろにモーニングスターを下から振り上げた。その軌道上に鳥型モンスターの顎があり、もろに打撃が入った鳥型モンスターはなすすべなく再び上空へと打ち上げられる。

 それを合図に二人は素早く木々を伝って鳥型モンスターよりも上へと跳躍。そして、二人合わせてその打撃特化の武器を振り下ろした。


「せー」

「のっ」


 バッコンーー!! という激しい衝撃音と同時に二人の下から何かが地面に落ちる音が木霊した。 

 土埃が舞いあがり、シロたちは一瞬視界が遮られる。徐々に土埃が晴れると、視界にはまるで隕石が落下したかのようなクレーターが出来上がっており、その中心には先ほどの鳥型モンスターが倒れていた。鳥型モンスターはすぐにその姿を消し、残されたのは窪んだ巨大なクレーターだけである。


 すたんっ、という着地音が鳴り、それに反応したシロたちが振り返ると何事もなかったかのようにクールな顔をしているララとルルがいた。まるで、戦闘など行われていなかったかのように。

 しかし、二人の手に持っている巨大ハンマーとモーニングスターが彼女たちの強さを物語っていた。


「「ブイ!」」


 エッヘン、と胸を張りながら片手でVサインを示す二人。

 シロたちはそれをただ呆然と眺めるだけであった。








 

 







 

 

 

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