ただ、純粋に悪。
@MethoD_ef
第1話・楽園へ
――×――×――
初めて少女に触れた時の感触を――喜びを今も覚えている。
大学生だったな。
近所に住む清美ちゃんのお母さんから家庭教師を頼まれて。
毎日毎日来る日も来る日も勉強を教えてあげた。
中学生の
私にとっては可愛すぎた。
天使に見えた。
だからくすぐりながら薄っぺらいワンピースを脱がしたのも。
体中をなで回したのも。
どさくさに紛れて桃色の突起を味わったのも。
全て私が悪いわけでは無いのだ。
菫ちゃんと。
私の異常性癖を見抜けなかった菫ちゃんのお母さんが悪いのだ。
全くもって勘弁して欲しいものである。
あの時あの瞬間から私は自覚してしまったのだ。
この社会が女性に望んでいる行動を――
――とることが出来ないことを。
別段男性が気色悪いとか汚いとか思うわけではない。
ただ純粋に少女が美しいだけだ。
二十歳を超えればくすんで見えてしまうが。
これは社会側からすれば僥倖だろう。
私のような人間のターゲットになる層が狭まっているのだから。
まぁ下は小学校に入学していればいけるから危険なのに変わりは無い。
「はは、は。頼むから責任とってよ……菫ちゃん」
日々があまりに空虚だ。
会社からは悪くない報酬を貰っているが。
誰も愛することができない。
愛したとて思いを伝えることもできない。
今年で三十路に突入しようとしている人性経験からなんとなくわかる。
世間が向ける同性愛者への視線は。
年々怪訝さを増している。
『いいじゃない別に同性愛者だって!』
みたいな風潮は一時期盛り上がったが徐々に落ち込んだ。
おそらく戦争が起因している。
日本からもばんばん徴兵が行われて。
産めや育てやが再度謳われることになっているからだ。
戦力を孕めない女に価値はないと。
そう――大勢の健常者は思っている。
「
「えっ、あれ、
二点を同時に驚いた。
まず一つ。
無意識に荷物をスーツケースへ詰め込んでいたこと。
二つ。
私一人しかいないと思っていた我が家に。
弟の彼女である
「いつも退屈そうにしてましたもんね。どこに行くんです?」
「ど、どこだろうね。全然考えてなかったというか……」
「ふうん。綯子さんみたいな人でもそんなことあるんですね」
喜久ちゃんは可愛い。
弟には勿体ない。
確かまだ大学生で十九歳だったか。
肌が健康的で。
根が真面目で。
顔がちっちゃくて。
胸もちっちゃくて。
髪はうっすら茶色に染めていて。
ショートヘアーが似合っていて。
とても素敵な少女だ。
「そっか、旅か。いいなぁ……」
喜久ちゃんは私のスーツケースをみて呟いた。
「でも目的地がわかんないしやっぱ中止かも」
私の弟は
徴兵され。
今は海を渡った遠く向こうでお国の為戦っている。
おかげで私や母や婚約者扱いの喜久ちゃんは。
政府から援助金をもらえているわけだ。
まぁ月収換算すれば私の給料の方が高いが。
「行ってくればいいじゃないですか、楽園」
スッと。
本当に何気なく。
喜久ちゃんは私に抱きついた。
「…………からかってるの?」
必死に抑えた。自分の中の悪を。
しかし柑橘の匂いが私の全てを刺激する。
鳥肌が立つほど興奮した。
「いいよ。わかってるから。綯子さんの視線、そこら辺の男子よりやらしいし」
いいよってなに? わかってるからなに?
犯していいの? 誘ってるの?
弟の婚約者傷物にしていいの? 実刑喰らったら何年?
「私もたぶん、綯子さんと同じ人種」
その言葉がトリガーになった。
彼女の健康的な腕を掴み。
私から振り解き。
そのままソファに押し倒し。
酸欠になるほどキスをして。
口内を犯し尽くした。
「でも私怖くてさ。無理だった。だからね、恭一くんで妥協したの。悪いでしょ」
返答はしない。
ひたすらに彼女の身体を貪る。
「ほんの少し前までさ、同姓でも疑似結婚みたいなのあったのにね。時間って残酷」
服を脱がして下着をずらすと。
衣服の上からはわからなかったけれど。
予想以上に豊満な乳房が露わになった。
何故かはわからないけど。とにかく乱暴に触れた
「ねぇ綯子さん興奮してる? 楽しい?」
喜久ちゃんは泣きながら笑っていた。
「私は気持ちいいよ、こんなの初めてってくらい」
わからない。
笑いながら――泣いていたのかもしれない。
「私やっと、初めて本当のセックスできるんだね」
――×――×――
意識がまともになったのは朝方。
自分のベッドにてだった。
同じ布団の中で裸の喜久ちゃんは。
小さく寝息を立てている。
再び始めたくなる気持ちを抑え。
とりあえず服を着てキッチンへ。
(……久しぶりにしたなぁ……)
大きく空いてしまってお預け期間が。
昨日の私を狂わせ。
更に今。
私はどうしようもなく。
少女という存在が愛おしい。
完全にたかがはずれてしまった。
抑え込んでいた全てが取り払われてしまったかのような開放感。
水道水を飲んでもう一度ベッドに戻り。
眠る喜久ちゃんを抱きしめる。
「良かった」
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん。何も言わないで行っちゃったのかと思って」
このままずっと。
抱きしめて。離さないという選択肢は。
その実存在しない。
喜久ちゃんは弟と結婚することで幸せが完成するのだ。
そして私は。
「楽園、あるといいですね」
前々からインターネットで散見していた――
――【楽園】に行かなければならない。
そこは同性愛者が集まり。
なんの気兼ねもなく生きていける場所だという。
当然詳しい場所は記されていない。
誰かが適当に書いた嘘だという意見もある。
政府が同性愛者を1カ所に集めて惨殺する作戦という意見もあった。
けれど。
私はもうこの世界にいられない。
私の居場所はここではない。
「あったかいなぁ。本当に、気持ちいい」
きっと喜久ちゃんは苦しかっただろう。
それほど強く抱きしめた。
様々な感情がこみ上がって。
それが力となってしまった。
――×――×――
「それじゃあ、行ってくるね。何かあったら連絡して」
「うん。寂しくなったら電話しますね」
「それはなるべくやめてほしいなぁ。絶対帰って来ちゃうから」
四国へ発つ。
貯金はあり過ぎるほどあった。
老後やらなんやらを心配していたことや。
そもそもお金を使う趣味を持っていなかったことが理由だ。
私は少女を抱けないのならこんな金あっても意味がない。
やっと。
そう気付くことが出来た。
「行って来ます」
「いってらっしゃい」
柑橘の香りがするキスが。
優しく私を送り出してくれた。
――×――×――
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