第9話 噂の二人
「誰がこの本を書いているかって?そんなこと……」
本を受け取った
「あっ、しかも涎を垂らしながら読んでたの?皺がついちゃってるじゃない!ほかの子にも貸すのに」
「よ、涎を垂らしながらなんて、そんなはしたないことはしないわよう!ただ、眠り込んじゃって、その時に……」
こんなことなら、貸すんじゃなかった……そう呟いて本を
「ごめんごめん、本を汚してしまって。ね、謝るから、また続きを回してよ。ついでに、誰が本の作者なのかも…」
米つき虫のように何度も頭を下げ、袖にすがる鈴玉を見て、鸚哥の眉間の皺も柔らいだ。
「うーん、どうしてそんなに作者に会いたいのか知らないけど。いいわ、ついてらっしゃいよ」
お互い持ち場を離れてしまうことになるが、彼女たちは気にもとめていなかった。鸚哥が鈴玉を連れて足を向けた先は、例の
これだけ広い後苑のどこかに、作者がいるのだろうか。鸚哥は迷いもせず真っすぐ西北のほうを指して歩いて行く。小柄な体格にも似ず鸚哥の脚は早く、鈴玉は小走り気味についていった。
やがて、
「
すると、がさがさ音がして、ひょこりと二人の内官、すなわち宦官が顔を覗かせた。二人とも躑躅の剪定をしていたらしく、手には鋏と剪定した枝葉を入れる籠を持っている。一人はほっそりとしたなで肩の柔和な顔つき、もう一人は相方より頭が半分ほど高く、濃い眉の悪戯そうな目元をしていた。
「やあ、鸚哥……じゃなかった、
そう言った彼等は見慣れぬ女官に眼をとめ、それぞれ
両人とも
「また持ち場を勝手に離れてきたのかい?今日は一体何の御用かな?」
「ふふふ」
鸚哥は辺りを見回し、あの本を懐から出して声を落とした。
「今回のもとても評判が良かったのよ。私のところまで回ってくるのに、大分待ったわ。この本もまだまだいろんな子に貸す予定なの。でね、今日は続きの催促と、あと――」
彼女は鈴玉のほうを振り返った。
「あんた達の本を読んだ同輩が、どうしても書いた人間に会ってみたいんだって」
そして鈴玉の姓名とともに所属の御殿を鸚哥から聞かされると、二人の宦官はそろって息をのんだ。
「鴛鴦殿?王妃さまの御殿づき?それなのにあの本を読んだの?」
「そうよ、いけない?」
鈴玉は腰に手を当てて胸をそらした。そこで、謝内官ははっと気が付いたように、
「そういえば、今年の
「な、何よ!」
怒りでわなわなと震える鈴玉を見て、慌ててとりなしたのが湯内官である。
「朗朗、おやめよ。ああ、彼は結構はっきり物を言うんだ、根は優しい奴だけどね。だから、ええと
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