第11話 紅亀捕獲
フォーク博士が「資金」のことで真っ白になってから数日が過ぎた。あれ以来フォーク博士は真っ白けになって何事にも無気力になってしまった……
彼はショッキング過ぎる出来事があると、真っ白になってしまい何事も手につかなくなる。だから、俺は普段から彼の研究熱を満たすために頑張っていたわけだけど……こうなってしまったら何かのきっかけで復活してくれることを願うしかない。
そんなわけで俺に何かできることが無いだろうかと考えた結果、紅亀を捕獲しに行くことにしたんだ。
バシリスクの砂粒を数えていた時にフォーク博士が「頭が冴え渡る」と言っていた紅亀コーヒーなら喜んでくれるかもと思い、どうせなら紅亀の甲羅を買うんじゃなくて、俺達三人の気分転換を兼ねて王都北東にある海へとやってきたわけだ。
フォーク博士は残念ながら、研究室で茫然としたままだったが……これをきっかけに気力が戻ってまたおいしい料理を作ってくれたらいいな……
そうそう、王都の北東には海があって、多くは岩場なんだけど砂浜ももちろんある。ちょうど泳ぐにいい季節だったから俺達は水着を持って砂浜にやってきたんだけど、もちろん遊びだけが目的じゃない。
紅亀は砂浜に現れることが多いから、紅亀をここで狩ってやろうというわけだ。
「ティルー、泳がないのー?」
両手を広げて犬耳をピンと立てたクトーが、両手を振りながら俺の目の前でピョンピョン飛び跳ねる。
彼女はすぐにでも泳ぎたいようで、水玉模様のビキニに着替えているけどいつもとほとんど姿が変わらないな。腰巻が無いくらいか。
「紅亀を狩ってから遊ぼうと思ったんだけど……」
俺がヤレヤレと肩を竦めると、後ろから声が。
「え……そうなんですか……」
俺が後ろを振り向くと、横ストライプの白地に赤のパンツに肩紐がない白のブラを着たアシェットが無表情で佇んでいた。顔こそ表情はないが、肩を震わせていることから微妙に動揺しているのだなと感じ取れた。
「あ、いや、遊びたいのはやまやまだけど、フォーク博士に再起動してもらうため、紅亀を狩りにきたわけで……」
俺が二人に釘を刺すと、クトーが首をコテンとかしげて呟く。
「まだ近くにはいないみたいだよー」
「クトー、どれくらいの距離になれば紅亀の接近に気が付く?」
「んー、二百を数えるくらい?」
「他のモンスターだとどうだ?」
「同じくらいかなー。浜辺はつよいモンスターはいないからーそれくらいー」
「なるほど……」
俺は無言で上着に手をかけると脱ぎ捨てた。黒のズボンも脱ぎ捨てるとカーキ色の膝丈の水着が顔を出す。
はははー、なら遊ぶか―。いやっほー。
俺は二人をよそに海へ向けて駆けだそうとすると、頭を掴まれる。
「紅亀を狩るんじゃなかったんですか?」
「い、痛い……痛いってええ。アシェットー」
アシェットに後ろから頭を掴まれているものだから、振り返ることもできないが彼女は何やらご立腹の様子だ。
「そのつもりだったけど……近くにいないし……クトーの感知能力なら察知してから武器を構えても間に合うし……」
「……そうですか……」
お、手が離れた。しかし、痛みのため俺は頭を抱え膝をつく。その隙に二人は海へ入っていきやがった!
ち、ちきしょううう。
俺は痛む頭を抱えながらもビキニ姿のアシェットのお尻と太ももを凝視する……しっかし水着といえばおっぱいの谷間が楽しみなわけだけど、二人とも見事なぺったんこだ。
その癖、生意気な……とか勢いに任せて口に出したら頭を潰されそうだな……
やれやれだぜ……俺は自分なりのニヒルな顔を浮かべゆっくりと立ち上がると、海へ向けて歩き出す……ってクトーの声が。
「ティルー、紅亀がくるよー」
ち、ちくしょう。海へ入られなかったじゃねえかよ。こ、この恨み、紅亀で晴らしてくれるわ。
俺は水着姿のまま剣を掴み、ギュっと握りしめる。
「ティル―、あと五十数えるくらいで海から顔を出すよー」
いつの間にか俺の隣まで戻っていたクトーが、俺の肩を掴み尻尾を振りながら海を指さす。
よおっし、俺は彼女が示した方へ歩を進めると、今か今かと紅亀の登場を待った。
――来た!
海面が大きく盛り上がり、紅亀の真っ赤な背中の甲羅の天辺が海上へ出たかと思うと紅色の甲羅の装甲で覆われた頭も顔を出す。
「行くぜ!
俺は自身の五感と身体能力をあげる
ん? 紅亀の捕獲難易度? あ、四だけど? いや、いいんだよ! 俺のストレスをこいつにぶつけるんだ。全力でいざ参らん!
俺は右ひざをぐっと屈めると、足先に力を込めて勢いよく踏み出す。
「
その時、アシェットの
うおおおおお。邪魔するんじゃねええええ。
俺は凍り付いた紅亀を見なかったことにして奴に斬りかかろうと剣を振り上げるが、後ろから頭を掴まれてしまった。
「痛い! 痛いってええ!」
「何やってるんですか? 解体すると持ち運びが大変になります」
「いいんだ! こいつをおおお。い、痛いいい!」
ダメだ。アシェットの手に力が更に込もり、俺の頭がひしゃげそうだ! 俺は仕方なく剣を腰の鞘にしまうと彼女も俺の頭から手を離す。
「いいんだ。泳いで遊ぶから!」
「およごー」
俺が海に飛び込むと、クトーが高く飛び上がって俺の肩へ両足を上手く絡めて肩車の体勢になる。
「行くぜー、クトー」
「おー」
俺はクトーの足を掴むと先ほど
そのままクトーとキャッキャ遊んでいたら、後ろからの視線を感じる……
「アシェット、一緒に遊ぼう」
俺は笑顔でアシェットに声をかけ、手を引くと彼女は少しだけ、ほんの少しだけ口元に笑みを浮かべてコクリと頷きを返した。
全く混じりたいなら素直に言えばいいのに……ま、まあ、普段のアイアンクロ―とのギャップで少し可愛いと思ってしまったけど……いかんいかん、騙されるな。
油断したらまた掴まれるぞ。
ん、アシェットが後ろから俺を抱きしめてきたぞ。柔らかい体の感触がするが、胸は? あ、突っ込んだらダメだ俺。口に出るぞ……
「……私も……できれば、その……」
え、ええと。できればって? 後ろを振り返ると、アシェットの頬っぺたに顔がつきそうになって慌てて前を向いたけど、彼女の目線はクトーにいっている。
あれか、放り投げて欲しいのか? それとも肩車か?
分からなかった俺は少し浅いところまでアシェットを背中に張り付かせたまま泳ぐと、彼女を抱え上げて肩車をしてみる。
太ももの感触がたまらん。こ、これはいい……
「ち、違います!」
アシェットは恥ずかしいのか足をワタワタと動かすものだから、俺の顔に太ももがムニュっと当たるう。うおお。このままむしゃぶりつきたくなる衝動を抑えていると、アシェットの両手の手のひらが俺の頭の上に……
恋人同士が肩車をして女の子が彼氏の頭の上に手を乗せてってシチュエーションのようにほのぼの、けしからんシチュエーションと勘違いしそうだけど、これは断じて違う。
下手したらこれは俺の命の危機だ! アシェットが両手で力を込めてしまったら、俺の頭は……そこまで想像すると俺の顔からサーっと血の気が引き、俺は名残惜しいアシェットの太ももの感触を即座に振り切り、彼女を力いっぱい投げ飛ばした。
肩車じゃなかったら、これだろ!
「ティル―、もう一回―」
アシェットが着水する様を見守っていたら、今度はクトーがまたせがんできた。
よおし、投げてやる、投げてやるぜー。
クトーを投げ飛ばしたら、戻ってきたアシェットをまた投げ飛ばし……
そんな感じで俺達は海を満喫した後、帰路に着く。しかし、俺達はフォーク博士を一人で研究所に残すべきではなかったのだ……
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