第6話
「河中さんって、あんまり笑わないよね?なんで?」
な・ん・で
着いてきている。この男。
しかも、私のこの男に対する応対はお世辞にも良いとはいえないはず。なのに、めげずに話しかけてくる意味がわからなかった。営業の方が向いてるんじゃないか、本当に。
「特に必要と感じませんので」
「えー、社内の対人間性を形成するのにすっごく大切だよ?」
わざとらしく驚き、にこやかに言葉を発してくる。
私は早歩きで歩いているためか、少し後ろを着いてきている形になるので表情は分からないが、また小首を傾けているのであろう。
全くもってこの人物は暇人なのか。マーケティング部はそんなに暇なのか。
「守谷さん」
私はピタッと足を止めて、振り返った。
振り返った先には、口元に笑みを浮かべた男が立っている。
昨日の色気は気のせいだったのか、今日はただの「気のいいあんちゃん」に感じた。
「なに?」
「守谷さんは下の階に何かご用事があると、思いましたがこんな所で油を売っていて大丈夫なのですか?」
相手の目を見て精一杯の虚勢。本当は、足が震えるほど嫌だ。
異性というのは、私にとって未知すぎる。
そんな本心を隠しての精一杯の言葉。それを聞いた、守谷さんは「あぁ、そのこと」と何でもないような感じで応えた。
「実は、急ぎで確認したい郵便物があってね。それが届いているか確認したくて下の階まで行くところだったんだ」
だったら早く言え!!
ちょっとした怒りを覚えつつ、私は、手に持っている郵便物を確認する。
確か、守谷さんは宛ての郵便物は届いていなかったはずだ。
「守谷さん宛の郵便物は朝までには届いていませんでした。そんなに急ぎであれば、届き次第、お渡しに伺いますが」
手に持っている郵便物を見て、やはり無いことを確認し伝える。
そう伝えると
「あぁ、ボク宛じゃないんだよ。部長宛。頼まれごとでね」
肩をすくめた彼が苦笑いをしながら言う。部長宛は、確か届いていたはずだ。
「部長さん宛の郵便物はこちらになります」
すっと、差し出すと「ありがと、いつも助かるよ」とふっと微笑んで、郵便物を受け取った。
「じゃぁ、ボクはお先に。部長ってうるさいんだ」
頭をぽんと一撫でしてそう告げた彼は、駆け足でマーケティング部へと消えていった。
「な…なんなのよ一体」
1人取り残された私は、彼の行動の意味がわからなくその場に立ち尽くすのであった。
心臓が五月蝿い。
このドキドキは、不安からなのか、怒りなのか、はたまた別の感情なのかは私にはわからなかった。
色香の恋 七瀬稔 @minoru7
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