第5話

しかし、業務というのは人の心には関係がなく…。


「美里ちゃん、これマーケティング部宛の郵便物。ごめんだけど仕分けて会議準備の前に届けてくれる?」


明先輩からそう言われて差し出された郵便物の束に私はそっとため息を吐いた。

よりにもよって、マーケティング部…守谷肇がいるところだ。

昨日の


「はい。分かりました」


私は、郵便物の束を人ごとに仕分ける。うちの会社は郵便が来る時間が決まっており、朝11時・昼14時・夕方17時の3回でそれまでに来ている郵便物を仕分けて各部署に置いている。

私は重要そうな郵便物を上に来るように仕分け、その人の郵便物の一番上に付箋を貼る。ポイントはその伏線に「◯◯様お疲れ様です。◯◯様あての郵便物になります」とちょっとした一言を添える。新人の頃に教わった「ちょっとした気遣い」である。

もうその先輩は、辞めてしまったけど先輩いわく「こういった無駄かも知れない事が仕事を円滑に回したりするの」らしい。

私もそれに習って、郵便物を置く際は付箋を貼るようにしている。

さらに付箋を貼ることによって。まとめて持っていってもどこから誰の郵便物が分かるのだ。


「マーケティング部に行ってきます」


仕分け終わった私は、そう伝えると一つ上のフロアにあるマーケティング部へと向かう。エレベーターは遅いので、基本階段移動だ。

ヒールをコツコツ鳴らしながら、階段を登っていると上から誰か降りてくる

音がした。


「お疲れ様」


男性にしては少し高めの声。守谷さんだ。


「お疲れ様です」


私は、少しだけ眉を潜めた。最悪だ。

なんで、昨日の今日でこの人に会わなければいけないのだろうか。

昨日は結局グラスワイン2杯程度で変に悪酔いしてしまったのだ。正直帰りの電車が辛かったのを覚えている。

八つ当たりは否めないが、この人のせいである。守谷肇という人物の色気に私は酔ってしまったのだ。


「昨日は、大丈夫だった?」


少しからかいを含めながら聞いてくる。この人には、適切な人との距離感というものが分からないのであろうか。しかもタメ口だし。


「業務ができる位しか飲んでいないので大丈夫です」

「でも、昨日帰る時少し顔色悪そうだったから」


帰る時まで、見られていたのか!!なんなんだ、一体。


「ご心配おかけして申し訳ございません。でも大丈夫ですので」


早く、この場から立ち去りたい。その一心で話を切り上げマーケティング部へと向かう。階段を降りてきたということは、下の階に用事があるということだ。さっさと行けばいい…なのに。

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