第11話
「本当に申し訳ないことをしてしまった。」
ウラの死を猫蔵さんに伝えると家に訪れて謝られた。
「安易な考えで病気の仔猫を預けてしまった。こんな悲しいことが起きてしまった。なんて謝ればいいか分からない。」
猫倉さんは何度も謝罪の言葉を口にした。
するとオカンは
「ウラは…あの子は優しい子でした。きっと自分より小さいあの子が心配で、ついて行ってしまったんだと思います。どうか顔を上げてください。」
猫倉さんに気を遣うように言った。きっと本当にそう思っていたのだろう。
しかしその言葉で猫倉さんも、そして私も少しだけ気が楽になったように思う。
猫倉さんは家に来る前にオオスナアラシと一緒にいたタカヤスの里親さんに連絡をとっていた。
やはり病気が感染っていたらしいとのことだったので、母猫のルナも病院に連れて行ったほうがいいと教えてくれた。
私は思ったのだ。
病気のことなど考えもしなかった馬鹿な私たちに、家族の危機をウラは伝えようとしたのではないかと。
そう思わずにはいられなかったのだ。
あの優しい小さい鍵尻尾を持った仔猫の想いがあったように感じたのだ。
猫倉さんが帰ったあと、ルナをよく観察しているとやはり風邪のような症状があるようにみえた。
具体的にはくしゃみをしてるようにみえた。
もともと家にきたときから身体は決して健康そうではない目やにがちな顔なので、果たして本当に病気なのかよくわからない。
とにかく病院に連れて行くと、お医者さんは
「いや、よくわからないですねえ。」
と困ったように言った。
仔猫を里親に出した後であることと、病気の仔猫を預かったこと。同じ症状でウラが死んでしまったことなどの経緯を説明したが、それだけでは抗生物質の注射を打つのはあまりよくないとのことだった。
「元気がないようにみえるのは、仔猫を失ったストレスの可能性があります。飼い主さんから見て普段の様子とあまり変わらないのであれば病気でないのかも知れません。」
きっと仔猫たちが死んでしまったのはウイルス性の肺炎だろうと先生は言った。
もしもルナが感染しているのならやはり注射を打つべきだろうとも。
しかし感染していなければ注射は意味が無く、今後病気をしたときに効果が弱くなってしまうというのだ。
なるほど。
だけどもどうすればルナが病気と判断できるのだろう?
何か検査が必要なのだろうか。
「いえ、くしゃみのひとつでもすれば。まあ風邪なので・・・」
先生がそう言いかけた瞬間
『くちゅん』
ルナがくしゃみをした。
タイミングがいいですね、と準備をする先生はどこかおかしいそうにはにかんでいた。
ルナは風邪と診断されて注射を打たれた。
これで一安心だ。
きっともう大丈夫。
家に帰って経過をみると、ルナは元気になっていった。
むしろ目やにが減って、以前より健康そうな顔つきになった。
まさに怪我の功名というやつである。
あれほど賑やかだった我が家が、突然閑静なおもむきに変わった。
ルナはウロウロと部屋中を確認していた。
きっと仔猫たちを探しているのだろう。
私とオカンは部屋の掃除を始めた。
仔猫たちの汚れは目につくものはきちんと始末していたが、仔猫たちは活発に冒険していたのでいたるところに痕跡が残っていた。
かくれんぼしていたソファーの裏。
ニコラスに襲われそうになった机の下。
追いかけっこしていた棚のすみ。
掃除を終えた頃には仔猫たちが来る前のリビングに戻っていた。
ルナは子猫たちを探している。
私たちはそれを見ていたたまれない気持ちになる。
だけどあの仔猫たちは、間違いなくルナが育て上げたのだ。
もらわれていった子も、そうならなかった子もきっと暖かい場所にいるのだと祈らずにはいられない。
だんだんと以前の生活に私たちは戻っていった。
以前よりもずっと、ルナは家に慣れていた。
それからは楽しく、穏やかな日々がつづいた。
ある日ルナと花火をみた。近所の人に、かわいいネコだと褒められて、誇らしかった。
だけどすこし不安だった、もしかしたら
…
だけど、言い出せなかった。
しあわせなしろいねことの10ヶ月 炉道 @roboing00
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