サンフィールド家への想い

    ワシントン州 香澄の部屋 二〇一二年八月一二日 午後一一時〇〇分

 今日はトーマスをはじめ香澄たちにも色んな出来事があり、彼女たちの疲労は一気にピークに達していた。トーマスはもちろんのこと、マーガレットやジェニファー、さらにハリソン夫妻たちでさえも早めに就寝していた。

 そんな中で、香澄だけはまだ眠りに就いていなかった。彼女には寝る前にどうしても仕上げなければならないことがある。

『…さてと、記憶が曖昧あいまいにならない間に仕上げましょう』

そう切り出し、彼女はテーブルに置いてあるノートパソコンの電源を入れる。


『……そ、そろそろ寝ようかしら?』

 今日一日の疲れが出たのか、レポートを書き終えると同時に香澄のまぶたが急に重くなる。そしてノートパソコンの電源を落とすと同時に、香澄はベッドの中で深い眠りに就く。


 香澄たちとトーマスが寝静まった夜――ハリソン夫妻は自分たちの部屋で、彼女たちの行動について話し合っていた。その内容は前向きなものが多く、“僕たちの判断は間違っていなかった。そして“カスミたちならこれからもトムの力になってくれる”と絶賛する内容ばかり。

「……でも本当によかったわね、あなた。まさか以前のように、トムがあんなに明るくなるなんて」

「そうだね、フローラ。……当初は“カスミたちにはちょっと荷が重すぎる”って思ったんだけど。でもそれは、僕らの取り越し苦労だったみたいだね」

「えぇ、本当ね」


 上機嫌に部屋で団欒だんらんする二人は、部屋に飾ってあるリースとソフィーの写真を手に取る。彼らの死を悲しんでいるのは息子のトーマスだけではなく、ハリソン夫妻も親友を亡くしたことで心をひどく痛めていた。

「ソフィー、リース。天国から見える今の私たちの暮らしは、どのように見えていますか? ……ねぇ、聞いてくれる? あなたたちもびっくりしたと思うけど、トムがやっと元気を取り戻してくれたのよ。あの子たちには感謝の言葉もないわ!」

「……あぁ、そうだったね。君たちは彼女たちのこと、知らないんだよね。また近いうちに会いに行くから、その時にでもゆっくりと教えてあげるよ……」


 まるでリースとソフィーの二人がそばにいるかのように、そっと語りかけるハリソン夫妻の姿があった。

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