【香澄・マーガレット・ジェニファー編(一)】

プレゼントの相談

               六章

 

         【香澄・マーガレット・ジェニファー編(一)】

    ワシントン州 ワシントン大学 二〇一二年八月九日 午後二時〇〇分

 ワシントン大学のカフェテリアで、一足先にトーマスと別れた香澄とジェニファー。その後彼女たちは、マーガレットを校門前まで見送る。“今日は夕方くらいに仕事が終わるから、みんなで夜ご飯を一緒に食べようね”と、三人は約束する。彼女と約束した後で、香澄とジェニファーはそのまま構内の図書館へ向かう。

 香澄は家を出る前に事前にジェニファーに話をしておき、“午後から一緒に図書館で勉強しましょう”と伝えていた。そのため彼女たちは事前に、バッグの中にノートを入れておき、心理学の復習をする準備がすでに整っている。夏休み期間中ということもあり、カフェテリア同様 生徒の数もそれほど多くなかった。

「……というわけなのよ。……いえ、そこは違うわ。その理由だけど……」

「うん、うん。……あっ、なるほど」

 二人は似た者同士ということもあり、自宅で一緒に勉強する機会も少なくない。と言っても、ジェニファーはアルバイトで家にいないことも多い。“タイミングが合う時には出来るだけ一緒に勉強しましょう”とお互い意識している。また学校の図書館ということもあり、心理学に関する専門書なども一通りそろっている。勉強熱心な二人にとって、まさにおあつらえ向きの場所とも言える。

 

 図書館で勉強を始めたのは午後二時ごろだが、時刻はいつの間にか午後五時を回っていた。

「ねぇ、香澄。もうこんな時間だよ……そろそろ帰る準備しましょう」

「……あっ、もうそんな時間なのね。分かったわ。ではこの部分で最後にして、帰る準備をしましょう」

“ラストスパートね”とお互いを励ましつつ、二人はこれまでに習った心理学の授業内容について、しっかりと復習をする。

 

 図書室で復習を終えた二人は、帰る前に一息つこうと再度カフェテリアへ向かう。途中構内の売店で、ミネラルウォーターを購入する二人。そして夏の日差しが照りつける中、彼女たちはカフェテリアの日陰の席に着く。

「……ところでジェニー。トムへ買うプレゼントって、あなたもう決めた?」

「えっ、プレゼント? ……ここだけの話ですけど、実はまだ決めていません」

 一瞬不安げにそう語るジェニファーだったが、“実は私もそうなのよ……”と香澄がフォローする。

「よかった、香澄も一緒ですね。でも実際のところ……何をプレゼントすればトムは喜ぶのかな?」

“実用性のある物がいいと思うわ”と、香澄は自分の意見を述べる。

「だったら私はCDにしようかな? ほらっ、ちょうどあの子が好きな女性歌手の新しいCDが、もうすぐ発売されるってCMで宣伝していましたよ」

“それも悪くないわね”と話しつつも、“三人のプレゼントが被らないように工夫することも重要よ”と香澄は語る。

「あまりトムを待たせるのも悪いから、メグの合宿が終わったら三人でプレゼントを買いに行かない?」

「いいですね。もしくはトムに今欲しいプレゼントを三つ選んでもらう、というのはどうですか?」

「本人に選んでもらうのも、一つの方法ね……」

 見事に意見は二つに分かれてしまった。香澄はジェニファーの意見を再度確認するが、彼女はあくまでも“香澄にお任せします”の一点張り。

「仕方ないわね、ジェニー。……とりあえず今夜三人で相談しましょう。それでどうしても意見がまとまらなかった場合には、トムに欲しいものを聞くというのはどうかしら?」

 決断力に欠けるジェニファーに少し呆れつつも、香澄は“やはりみんなで相談して決めるべきよ”と結論を出した。分かりましたとジェニファーは香澄に賛同しつつ、二人は自宅へと帰る準備を始める。

 

 二人がカフェテリアを後にしようとした矢先、突然香澄のスマホが鳴り始めた。“何かしら?”と思いながら香澄がポケットの中からスマホを出すと、画面にメール着信履歴ありと表示されていた。すぐにメールをチェックすると、送信した相手は彼女たちの親友マーガレット。


香澄へ

 今仕事が終わってこれから帰るところだけど、良かったら一緒に帰らない? あなたとジェンのことだから、まだ大学にいると思ってメールしたの。後二〇分から三〇分くらいで大学へ着くんだけど、さっき別れた校門前で待ち合わせはどう? 

 それと今電車の中だから、出来れば一〇分以内に返事が欲しいな。そういう訳だからよろしくね!

                              メグより


「……へぇ、マギーもこっちへ向かっているんですね。どうしましょう、香澄?」

 ひょっこりと覗かせながらメールの内容を確認するジェニファー。そんな彼女の横顔を覗きこみながら、“特に問題ないわよね”とアイコンタクトを送る。ジェニファーのアイコンタクトを確認した香澄は、すぐにマーガレットへ返事のメールを送信する。


メグへ

 ちょうど良いタイミングだったわ。私もジェニーと帰るところだったけど、用事もないから少しだったら待ってもいいわよ。……三〇分以上かかりそうだったら、私かジェニーのスマホへ連絡してね。

                              香澄より


P.S……トムへプレゼントする商品を、後で話し合うつもりなの。だから今夜、時間空けておいてね。


『これでOKね。きちんとプレゼントの件も、しっかりとメールしたし……』

 メールをマーガレットへ送った香澄とジェニファーだったが、それから数分もしないうちにマーガレットからの返事がくる。“分かったわ”とだけ画面に表示されていた。香澄はスマホをタップしつつホーム画面に戻しつつ、二人は校門前でマーガレットの到着を待つ。

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