マーガレットの宣言!?
ワシントン州 一階リビング 二〇一二年七月四日 午前一一時〇〇分
その後もしばらく彼の作品についての話題が尽きぬ中で、何かを決心したかのようにマーガレットはみんなの前である発表をする。どうやら彼女自身も何か考え事をしているようだ。今回トーマスが作品を完成させたことで、一つの区切りが出来た様子。
「よしっ、私決めたわ! ……ねぇ、みんな。ちょっと聞いて欲しいんだけど」
「どうしたの、メグ。聞いて欲しいことって……」
香澄はいつもの冗談か何かと思っていたが、そんな予想とは異なり、“いたって真面目な内容よ”とマーガレットは伝える。
「失礼ね、今回は真面目な話よ。香澄たちには前にも話したんだけど……ケビン、フローラ。年末のイベントで行うお芝居で、私主役を演じる予定なの!」
「おぉ~それはすごいねメグ。……ちなみに、何のお芝居を上映する予定なんだい?」
「『オペラ座の怪人』を予定しています。しかも主役のクリスティーヌ・ダーエ役なんですよ!」
「まぁ、トムに続いてメグからも嬉しいニュースが聞けるなんて。おめでとう!」
ハリソン夫妻はマーガレットが主役を演じると聞き、“おめでとう!”と祝福する。思わず彼女は照れてしまうが、発表したい内容はそれだけではなかった。
「それでね……イベントまでまた半年近くあるから、そこで舞台の内容に合わせて劇中歌を作ってみたいと思うの!」
「ちょっとメグ、落ち着きなさい! 劇中歌となると、ただ作詞をするだけではないのよ。メロディーに合わせて、色々と作らなきゃいけないのよ。大体あなたに脚本……じゃなくて、作品の内容に合うような作詞が出来るの?」
だがマーガレットは注意する香澄に対し、“気落ちするようなことは言わないで”と注意する。“はいはい”と聞き流しつつも、“チャレンジするなら演劇の練習やアルバイトに支障がない範囲内で行うように”と伝えた。
「本当にあなたは小言癖が多いんだから。分かっているわよ。学業やお芝居の質を落とさない範囲内で、私なりに努力をして作詞をするわ。……それでいいんでしょ!?」
少し不機嫌な顔をして声を荒げるマーガレットだが、香澄たちの前で作詞に挑戦することを再度宣言した。
ワシントン州 香澄の部屋 二〇一二年七月四日 午後一一時〇〇分
後日ワシントン大学へ行く日程が決まり、彼女たちはそれぞれの時間を過ごしている。マーガレットや演劇サークル活動を中心に励み、ジェニファーは勉学とアルバイトの両立。そして香澄は勉強にカウンセリングと、皆自分たちのことで何かと忙しい日々を過ごしている。
そんな中で香澄は一人、ハリソン夫妻に依頼されているトーマスのカウンセリング記録を作成している。
カウンセリングレポートを書き終え、香澄はその場で軽く背伸びする。作成内容に不備がないことも確認し、“そろそろ寝る準備をしようかしら?”と彼女は思う。
『どうしようかしら? もう一言、何か付け加えたい気がするけど……』
香澄は何も言わずに、ノートパソコンのキーボードに手を置く。そしてただ黙々と、画面上に再度文字を打ち込んでいく。
「ふぅ、今日はこれで終わりにしましょう」
一通りカウンセリングレポートを書き終えた香澄は、ノートパソコンの電源を落とし寝支度を始める。当初はハリソン夫妻からの依頼に、どこか自信を持てずにいた。だがマーガレットやジェニファーをはじめ、ハリソン夫妻らの協力あって順調にトーマスの心のケアを行っている香澄。
お互いに支え合って生きているのは、何もトーマスだけに限ったことではない。そんなトーマスの心のケアをする香澄自身もまた、色んな人に支えられて生きているのだ。
『……今回の依頼を受けて初めて実感したけど、心のケアって本当に難しいわね。学校の勉強のように、上手くいくものではないわ』
ワシントン大学では優等生の香澄でさえも、心に傷を負った少年の心を癒すのは容易ではない。そのことを再度痛感しつつも、香澄は明日に備えてベッドでゆっくりと目を閉じる。
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