香澄のカウンセリングレポート(二)

      『心に傷を残した少年の心理状態および行動記録(二)』


 [二〇一二年六月二〇日 午前一〇時〇〇分……昨晩にトムから“イベントに投稿するための作品が出来た”と聞いた私たちは、翌日の朝に詩の内容を確認する。当初は九歳の少年が作った詩なので、“子供っぽいものになる”とばかり思っていた。

 しかし実際に作品を見てみると、九歳の少年が数週間で作ったとは思えないほど素晴らしい仕上がり。メグたちも私と同意見で、私たちはトムの意外な一面を知るのだった。

 事前に私たちがアドバイスをしたとはいえ、実際に受賞出来るかは別問題の話――それを考慮しても、これほどの作品を仕上げたのは間違いなくトムの力に他ならない。心の病の影響により“自分は厄介者”と思い込んでいるであろうトムに対し、私は“もっと自分に自信を持ちなさい”というエールを贈りたい。


 二〇一二年七月四日 午前九時〇〇分……私たちにとって、この日が驚くべき一日になった。ワシントン州シアトルで主催されているイベントに、トムの作品がなんとを受賞したのだ。応募者は二〇〇〇名以上いるとのことで、突然開花したトムのにただ驚くしかない。しかもアメリカ史上類を見ない記録で、良い意味で私はトムが出した結果には驚かされている。

 この先トムはどんな道を歩むのだろうか? 今は亡きトムのご両親も、きっと彼の功績こうせきを天国で祝福しているに違いない……

 なお私たちはこれをきっかけに、私たちはトムに『Sweet Home』という作品のテーマを聞くことが出来た。するとトムは“子ども目線をベースにしつつも、『家族愛』『日常』『夢』をテーマにした”と嬉しそうに語ってくれた。どれもすべて特別な内容ではないだけに、トムの想像力には驚かされることばかりだ]


 今回のイベント受賞を受けて、私はある一つの仮説を考える。その仮説とは、トムがのではないかというもの。

 確かに人間関係という意味においては、無口で無愛想といった短所が目立つ。だがその短所を補うかのように、芸術分野において突飛した才能を持っている。後にトムから話を聞いたところ、少し前までは芸術に興味がなかったとのこと。それが初めてわずか数週間足らずで、大人顔負けの表現力で詩を完成させる――トムには常人に見えない、特別な何かが見えるのだろうか?

 突発的に両親を亡くしたことにより、確かにトムは精神障害や心の病を発症した。だがその一方で、今まで眠っていた芸術の才能が開花したとも考えられる。ゴッホやトルストイなどの優れた芸術家も、精神病をわずらっていたと記録されている。

 良き理解者である知人の養子になることが出来、幸せな少年だと私は心から思う。両親を失ったことによる哀しみははかりしれないが、トムには何としてもこの苦難を乗り越えて欲しい。このまま何事もなく成長すれば、アメリカ史に名を残すほどの著名人になれる可能性を秘めているのだから……]

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