マーガレットの告白!?

   ワシントン州 トーマスの部屋 二〇一二年六月一二日 午後九時〇〇分

 時刻は午後九時〇〇分となり、香澄たちはそろそろ彼の部屋を出る準備をする。だがそこでジェニファーがマーガレットに、

「ところでマギー。さっきあなたが言っていたお芝居のことなんだけど……」

“今度のお芝居で、誰の役を演じるの?”と尋ねる。

「よくぞ聞いてくれました! なんと、主役のよ」

 

 主役のクリスティーヌ・ダーエと言えば、『オペラ座の怪人』のヒロイン。まさに話の主役のクリスティーヌ役を演じる予定のマーガレットは、どこか浮かれ気分。

「おめでとう、メグ! クリスティーヌ役を演じるなんてすごいわね。でも主役だから、セリフ覚えや練習とか大変でしょう?」

「確かにセリフ覚えとか大変だけど、一部アドリブもOKって感じで演じる予定なの。本番が近付いたらお仕事もお休みする予定だから、特に支障はないわ」

「へぇ、すごいですね。マギーが主役のお芝居か、今から楽しみ」


 一方で横で彼女たちの話を聞いていたトーマスは褒めると同時に、“メグって見かけによらず、すごい人だったんだね”と、どこか香澄のような皮肉を言う。

「ありがとう、トム。でも最後の一言は、私ちょっと傷ついたかな。……悪い意味で、あなたも香澄に似てきたわね」

「ご、ごめんなさい! 僕、別に悪気があって言ったわけじゃ――」

「――冗談よ。トムは本当に可愛いわね」

 そう言いながらマーガレットはトーマスの頭を優しく撫でると、彼は恥ずかしがりながら“止めて”と叫ぶ。とっさにマーガレットはトーマスの頭から手を離すが、恥ずかしがっている少年をさらにからかう。

「それともトムは頭を撫でられるより、方がいいのかしら!?」


 とっさにマーガレットがトーマスを抱きしめようとすると、彼は驚いて後ろへ後ずさりした。だが勢い余って後ろへ飛んだためか、トーマスは足を滑られてしまう。軽く尻餅をついてしまったが、目立った外傷はない。すぐに彼の一番近くにいたジェニファーがトーマスを起こすと、マーガレットは“悪ふざけがすぎたわ”と謝る。

「ごめん、トム。ちょっとからかいすぎたかしら!?」

 マーガレットは赤くなっているトーマスを見て、彼を魅了するかのように軽くセクシーポーズを取る。長年の芝居経験があるためか、マーガレットは自分のプロポーションに自信があるようだ。

「ぼ、僕は別にメグのことなんか好きじゃないよ!? 何も変なことなんて考えていないよ!?」

「あら、トムの言うって何かしら?」

「だ、だから、それは……」


 相変わらずトーマスをからかいつつも、彼の無邪気な反応を楽しんでいるマーガレット。その様子を見かねた香澄は、

「メグ、そのくらいにしなさい! トムが困っているじゃない」

「何でよ、香澄!? 私はトムとスキンシップを取っているだけよ」

「分かったわよ。……それじゃトム、私たちはこれで部屋に戻るわね。お休みなさい」

少し不機嫌そうに、香澄が彼に“お休みなさい”と言う。トーマスも同じように返し、遊びに来た彼女たちを見送る。


 トーマスに見送られた三人はその後香澄の部屋に向かい、彼の様子について話を始める。だがその内容は明るく、最初に出会ったころに比べて大分進展が見られる。

「今日のトム、何だかいつも以上にお話ししてくれましたね。初めて出会ったころは、無口で大人しい子供だと思ったのに」

「本当ね。やっぱりあの子が“イベントに参加したい”って言ったことが、大きく関係しているのかな?」

「その可能性は考えられるわね。でもね、メグ。あまり気を抜いてはだめよ。これからも私たちは注意をしながら、トムの様子を見守りましょう」

「もぅ、分かっているわよ――それともう一つ聞きたいことがあるの。香澄、は順調かしら?」


 マーガレットが言う“例のレポート“とは、ハリソン夫妻に頼まれたトーマスのカウンセリング記録のこと。香澄にとって本格的なカルテ作成は初めてだったが、“私なりに努力しているわ”とだけ伝える。それを聞いた二人はほっと肩を下ろし、引き続き世間話を楽しむ。

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